今回、インタビューを受けてくださったのは、ラジオを運営している相田先生(仮名)。いつも温和で、人当たりのよい相田先生。そんな先生が組織の中でどんな風に働かれているのか気になり、「組織の文化をよくしていく(組織開発)」をテーマにお話ししたいと思いお声がけさせていただきました。どうぞご一読ください。
クラスから学年、そして学校全体を見る立場へ
相田先生は、教職16年目。現在は小学校での勤務が3校目の先生です。小さな規模の学校に勤務しています。相田先生が、学校の組織開発に興味をもった理由は2つです。1つ目が、教員としての勤務が長くなっていくうちに、管理職への昇進をここ数年誘われてきたから。しかし、今の自分が管理職になることに対して、まだ実感が湧かなかったので、ここ数年、断ってきました。2つ目が、自分のクラスや学年だけでなく、学校全体を考えることも増えてきたから。この2つの理由から、関心事がクラスから学年、そして学校全体へと広がっていき、自ずと組織開発という分野に興味をもちはじめます。
クラスと職員室はつながっている。職員室ラジオの開始
そんな中、新型コロナウイルス感染症が拡大していき、学校の給食が黙食になります。もともと給食は楽しい時間でした。その時間をなんとか充実させたいなと思いついたのが、クラスでラジオを流すことでした。事前に、子どもたちに音楽のリクエストを聞いたり、ラジオのコーナーのように録音したりしたものを給食の時間に流すことをはじめます。それが、子どもたちに大人気。
これを職員室ではじめたら面白いんじゃないかと思い、取り組みはじめたのが、「職員室ラジオ」です。ここでも、クラスから学校全体に広がり始めていた相田先生の意識が伺えます。
このことを相田先生は、「クラスと職員室は繋がっています。だから、学校全体をよりよくしようと思ったらクラスも職員室も大切にしなければいけないんです。」という言葉を使って、課題を明確にされていました。
職員室ラジオは、子どもたちと行っていたものとは、形式やコンテンツが少し異なります。毎回同僚を1人よんで、事前に収録します。時間は5分。先生トークというカードを使って、ランダムなテーマに基づいて話します。そして、録音したものを、ロイロノートの職員共有フォルダに入れて共有します。それを全職員と行う。これが職員室ラジオです。
ついつい対話してしまう文化をどう作るか?
今、学校現場は働き方改革の波もあり、会議も短時間化を目指しています。組織開発を行う上では、会議の短縮化で生まれた余剰の時間を職員間の対話に回した方がいい。これも一つの方法だと思いますが、相田先生はここに疑問を呈します。そもそも、教職員の教育観や変革への思いは様々です。対話の場をいきなり開くと、学校を変革したい側と、強制的に変えられる側という2つに別れてしまい、組織がよりよくなっていかないのではないか。だから、「もっと気軽に雑談をして、ついつい対話しちゃう関係を作れないだろうか。」と。
全体での対話の場を作る前に、もっとつぶさに、一人ひとりとの関係性を作るところにフォーカスする。そんな問題意識をもっていたから、手軽に対話に近い雑談ができる「職員室ラジオ」を相田先生は始めました。
職員室で新しいことを始める時には、心理的ハードルがあるものだと思いますが、相田先生はどうだったのでしょうか。相田先生の学校では、小規模校特有の素晴らしい文化の存在が職員室ラジオというチャレンジを後押ししていました。学校は校務分掌上の役割で、様々な仕事と責任に切り分けられています。職員が一定数いれば、分担することもできますが、小規模校では校務分掌を分担しただけでは学校は運営できません。そこで、手が空いてる時に、誰かを手伝う。自分の役割を越えて、手伝う。そんな文化が勤務されている学校にはありました。この協力する文化と、もともともっている相田先生の「まずはやってみよう」のマインドが重なり、職員室ラジオの導入には、ほとんど心理的なハードルはありませんでした。
自分が面白がれるからこそ、続いた職員室ラジオ
職員室ラジオを始めたのは、3校目に移動してきて2年目の5月。「まだ、先生たちのことを知らないので雑談しませんか?」と、異動を逆手にとり、置かれた状況を活用しながら、自分から先生たちのことを知る第一歩を踏み出します。5分と決めていたのに、盛り上がって10分に及ぶことがほとんど。中には、10分の収録後も盛り上がり、全部で40分になる対話もありました。こんなに盛り上がり、対話した人が満足するのは、相田先生の「なんでも面白がる力」がありました。
この面白がる力は一体いつどこで身につけられたものなのでしょうか。気になって聞いてみました。
話していただいたのは、高校生や大学生の時の話。高校生のころの相田先生は、自分から笑いを取りに行くタイプじゃなかったそうです。むしろ、物静かなタイプ。しかし、自分なりの笑いは大好きで、ナインティナインのオールナイトニッポンやFM802などラジオのおもしろい番組をよく聞いていました。時には、ラジオで話されたことを、録音して全て文字に書き起こすなどもしていた高校時代。自分の中に、他の人が企画した面白さを溜め込んで、自分なりの面白さを探究していく日々でした。
そして、ため込んだ力をいよいよ発揮するのが大学時代。入っていた同好会の先輩から、同好会のイベントを取り仕切り、人前でネタを発表する役割を任されます。当時を振り返っても、なぜ自分が任されたのかはいまだにわからないとおっしゃられていましたが、この偶然の任命によって、今までため込んでいた面白さをアウトプットする機会を得ることになります。「溜め込んでいたものをやっと、解放された感覚だった。」と話す相田先生は、イキイキとされていました。この時の経験が自分が面白いと思っていたものが他の人も面白いんだという自信になり、さらに日常を面白がることができるようになったそうです。
この話を聞いて、職員室ラジオがなぜ上手くいったのかが分かった気がしました。ラジオという媒体は、相田先生にとって自分自身が没頭できる媒体であり、原体験そのもの。自分自身が面白がれるものを選んで実践しているからこそ、最後までやりきれる。実際に、全職員との職員室ラジオの収録はすでに終えて、もう2週目に突入されています。この継続性の原点には、原体験と繋がった強いエネルギーがあったのでしょう。さらに、同い年の先生や用務員さんなどがリスナーになっていつもフィードバックをくれていたことも続けることができている大きな要因だそうです。
土の下にある見えないものを見る意識
最後に話されていた言葉が印象的だったのでご紹介します。
これまでは、クラスでも見えるところだけを見て、対処してきました。でも、振り返って初めて、あの子とあの子がこんな風に繋がっていたんだ、ここがネックになっていたんだと、今まで見えていなかった土の下にあるものを見ようとする意識が生まれていました。それは、みんなの声をコツコツと知ることからしか生まれません。職員室も一緒で、土の中にある“見えなさ”は子どもも大人も、人であるということでくくった時には本質的に同じ問題なんです。
編集後記
見えている問題に対症療法的に対応していてもいつまで経っても“見えなさ”は見えないままです。見えていないという自分に気づいた時に、見えていなかった個の声を聞いていく。そこに問題解決の糸口があるのです。職員室とクラスは、土の中の見えなさで本質的に繋がっている。だから、職員室の雰囲気がいい学校は、子どもたちも雰囲気がいい。全ては、見えないところで繋がっている。
見えないものを見る自分なりのアプローチが、学校をよりよくしていく第一歩なのだと思いました。
相田先生、ありがとうございました。
(インタビュー・文:石橋智晴/編集:たかのまさこ)
「教室から変わる」Our Story
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