今回、インタビューを受けてくださったのは、教職17年目の弘中先生(仮名)。職員室での関係性づくりに関して具体的にお話いただきました。どうぞご一読ください。
求められた役割で動き、そろえることを重視した2校目
初任者として勤務した学校は、30-40代の年齢層が多く、活気がある職場。よく飲みに行き、職員室では、お互いにダジャレを言い合える自由な雰囲気だったと言います。そのような自由な職場だからこそ、初任者として、隣の先生がやっていないことをどんどん実践していました。それを、周りの先生も受け入れてくれていました。この頃は、学級経営が上手くいけば何とかなると、自分のクラスのことだけを考えていた時期でした。
2校目に異動してからは、中堅として、学年主任や研究主任など責任ある仕事に従事します。自分のクラスのことだけを考えていた1校目とは違い、職員室の中でどのように動けばいいのかを考え始めた時期でした。学年主任としては、自分のやりたいことは一度脇に置いて、周りの先生たちと掲示物や学習規律などを”そろえて”行うことを重視していきます。そろえないと周りの人に迷惑がかかってしまう。そんなことを考えていました。当時を振り返れば、保守的な進め方で学年を運営していたそうです。
本来の自分のあり方とは違う、求められた役割で動いていく難しさを感じていた時期でした。この時期は、保守的な価値観の中で活動していた分、些細なことも気になる時期だったのでしょう。それを表すエピソードがあります。女性の先生がネイルの話を職員室でしていた時、弘中先生は「子どもたちに指導をするのに、ネイルやマニキュアの話をするのはやめたらどうですか?」と声をかけていたそうです。お話を伺う中で見えてくる、現在の弘中先生のあり方からするととてもじゃないですが考えられません。
「ねばならない」から解放された職場以外で得た学び
そんな中、将来のキャリアのことも考えて、大学院へ進学し、心理学を学んでいきます。また、この時期には、一般社団法人こたえのない学校が主催するLeaning Creators Lab.(以下、LCL)に参加します。
大学院とLCLという2つの場を通して、ロールモデルとなるような先生との出会いが今後の人生に大きな影響を与えます。その先生の実践は、これまで弘中先生が取り組んできた実践とは、大きく異なりました。子どもも大人も多様なのだから、一律に管理するのでなく、どんどん混ぜる。画一的で管理的な指導から違いを大切にする支援へ、分けて管理するよりも混ぜて学びを保証するシステムへ。そろえることを重視していた弘中先生からすると大きな衝撃でした。
実際に、その先生の話を聞くまでは、このような実践を公立学校で行うと、周りの先生の迷惑になるだろうと考えていました。しかし、実際に話を聞いて、プロジェクトでもフィードバックを貰っていくうちにその先生は実践を通して周りの人を幸せにしてるんだということが分かり、学校はこうあら「ねばならない」が無くなっていきました。
また同時期に、お子さんが小学校に馴染めていないという現状にも直面しました。担任の先生を責めるのではなく、これまでの学校の仕組み自体に課題があるのではないかと考えるようになりました。
学級も学校も1つの正解があるかのように感じるが、社会に出ると何が正解かわからない中で生活しなければならない。そのように考えていく中で、ねばならないからの脱却、混ぜる、既存の学校システムへの疑問、このような学びが重なっていき、自分のこれまでのあり方を振り返り、他者への関わり方に変化が生まれていきます。
職員室での人間関係をよりよくするために行った4つのこと
3校目に異動し、職員室での人間関係をよりよくするために弘中先生が意識されていることを教えていただきました。まず大前提として、人と戦わないこと。ぶつかり合っても物事は進んでいかないので、相手のことを理解することを大事にしています。
1つ目が、苦手な人にほど話しかけること。苦手意識の背景には、自分と異なる価値観があります。でも、それは相手にとっての正義であり、その正義と自分の正義がぶつかることで相手が悪になってはいけない。そうならないためにも、自分から相手の正義を知り、相手から学ぶことが大切であると弘中先生は語ります。だから、新型コロナ感染症が広がる前は、どんな先生とも飲みに行っていました。
2つ目が、電話を率先して取るということ。自分の時間をとられる地味な仕事なので、できればやりたくありません。でも、誰もやりたくないことを自分から行う。それが仕事をする上で大切になります。それを見た後輩の先生たちが真似することで、さらに他の先生が輝けます。自分が率先してやってみせるということが、職員室の中で大切になってきます。余談ですが、自分が率先してやっていると、他の人が見つけて褒めてくれます。しかし、それも最初のうちだけ。だんだん褒めてもらえなくなりモチベーションが下がってきますが、ある時弘中先生はふっと気づきます。これは、徳を積む修行だと。誰かに感謝されたくてやるものでなく、自分がやりたいからやる。そう言うふうに意識できるようになってからは、他の人の言動に振り回されることもなくなったそうです。
3つ目が、悪口に乗らないということ。職員室の雰囲気が悪くなるのは、大体その人がいなくなった時に悪口を言うことから始まります。誰しもストレスが溜まると愚痴や悪口を言いたくなるものですが、そこに参加はしません。
逆に意識して実行していることが4つ目です。それは、日向口を言うこと。日向口とは、陰口の逆で、誰かがやってくれた仕事を見つけて、感謝を伝えること。また、周りの人に、大きな声でその人の取り組みを伝えることです。自分で率先してやることも大事ですが、やってくれている人を見つけて感謝を伝えて、職員室のいい雰囲気を作っていきます。
自分が変わる一歩を踏み出せた時に、組織への関わり方が変わる
他にも、校内で自主的な勉強会を開いて様々な先生が実践を話す対話の時間を確保したり、時には隣の先生にちょっかいを出して笑いを生み出したり、全体を見ながら自分らしく行動しています。あえて空気を読まないキャラを演じることで全体のバランスをとっています。不思議と昔から怒られないキャラだそうです。この辺りは、1校目の先輩たちから学んでいきました。
そして時には、管理職と教務主任の間に入り、それぞれの気持ちを代弁するなど組織の中の優れたバランサーとしてその力を発揮しています。それぞれの思いを大事にしながら折衷案を一緒に考える。管理職は孤独だからこそ、自分から話にいく。バランサーとして、上下関係なくどんどん人に聞いて学んでいく。
学校全体を意識している弘中先生は、こう断言します。
「人は変えられない。だけど、自分は変えられる。」
自分の認識を変えることで、組織を見る眼差しにも変化が生じるのです。
編集後記
学校が働きやすい職場になるために必要なことは、1人ひとりの意識と行動の変容です。無理に、相手を変えようとしても抵抗にあって何も変わりません。むしろ悪化するでしょう。必要なことは、自分から変わっていくこと。その一歩が踏み出せた時に、自分の周りから変化の風が吹いていくのです。弘中先生ありがとうございました。
(インタビュー・文:石橋智晴/編集:たかのまさこ)
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