卒業プロジェクトとして、学校のルールメイキングに取り組んだ埼玉県戸田市立新曽小6年生の【総合的な学習の時間】。
単元のテーマとなった「学校内の三権分立」は、社会の授業「国の政治のしくみと選挙」で、三権分立を学習した子どもたちが「学校内では司法権も立法権も先生が握っている状態になっている。これまで行ってきたICT活用のルールメイキングと同じように、学校のルールに関しても自分たちで見直すことができるのではないか」という議論を始めたのがきっかけです。
今回、そんな子どもたちとともにこの授業づくりに取り組んだ小林湧さんにお話を伺いました。
※この授業に関する学習指導案はこちらからご覧ください。
PCに関するルールづくりがきっかけに
この単元のテーマが決まった背景は、新年度が始まって学年主任と子どもたちの話をしていた際に、放課後を含めて規律面に課題があったため「ルールや規律に関するプロジェクトができたらいいよね」と言っていたのがきっかけです。
そして、学年全体の【総合的な学習の時間】を軸としたカリキュラム・マネジメントを任せてもらっていた私は、授業についてどのように進めるかを考えていました。そんな中、職員の会議で「1人1台端末の使い方に関して、学校でより厳しいルールを定めるべきではないか」という声が上がりました。
しかし、前年度から「子どもたちが自分でPCに関するルールを作れたらいい」という話を教頭としていたこともあり、大人が一方的にルールをつくるのではなく、子どもの意見を聞くために児童会を巻き込みながらPCに関する『レベルアップ型』のルールづくりを行うことになりました。
また、子どもたちにも【総合的な学習の時間】のテーマについて相談していた中で、
「PCだけでなく、学校のルールに拡張できるのではないか」
「三権分立の学習をしたが、ルールを作るのも裁く(指導する)のも教員が握っているのはよくないのではないか」
という議論に発展しました。
このようにして、教員、子ども双方に相談し、単元のテーマが決定していきました。
育てたい資質・能力が教員・子ども間で共有され、不安なく前に進む環境
この単元の学習指導案(以下、指導案)を作成する過程で大変だったことは、子どもたちが走りながら考える授業スタイル(【総合的な学習の時間】に関しては特に)だったのもあり、子どもたちの活動を後追いで指導案に起こしていく感覚が強く、すべてが計画的に決まったわけではないという点です。
ただ、学校として育てたい資質・能力が、教員研修の中で定まっていたこともあり、「どのような方向に進んだとしても、(育てたい)資質・能力という軸を子どもたちと共有している」という自信が教員、子ども双方にあり、先があまり見えないことによる不安はありませんでした。
また、学年の教員間で得意なことと苦手なことがよくわかっていたので、それぞれが業務全体をカバーしあいながら計画を立てており、負担感もまったくありませんでした。
教員、子ども、学校外の大人、多くの人を巻き込んでつくる
私の学校は、学年の教員全員で子どもみんなを育てようという方針だったため、この指導案の単元について、一番はじめに相談したのは学年の教員でした。
次に相談したのはクラスの子どもたちです。学校での学びの主役であり、人として尊敬できる児童がたくさんいたので頼りました。その後、教頭や主幹教諭、校長、各分掌(特に最初は情報)の教員に相談し、学校内での理解を広げていきました。
外部の方で一番はじめにお力を借りたのは、フューチャーインスティテュート株式会社の為田裕行さんです。以前からお世話になっていましたが、ちょうど一人1台端末のレベルアップ型ルールメイキングについて書かれた「一人1台のルール」という書籍が出版されており、参考にさせていただきたかったからです。
その後、保護者の方々にご協力をいただいてルールメイキングを学校と家庭でつなげました。
学校のルールメイキングに移行する段階でお願いしたのは、認定NPO法人カタリバです。個別の小学校に伴走するところはまだやられていないとのことだったのですが、単発で導入のするための授業をオンラインでお願いし、「ルールは自分たちで変えられる」というマインドを伝えてもらいました。
その後、外部に発信するときにわかりやすくできないかという観点で、一般社団法人かたりすとに指導案の図解を依頼しました。
そして、総合的な学習の時間、PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)としてよりよいものとするために埼玉県戸田市の中村指導主事にもフィードバックをいただきました。
子どもたちが真剣な分、大人も真剣に応えてくださいました。また、自分一人での取り組みではなく、学校全体での取り組みでもあったので、校内の先生方にも一緒に見守って育てていただきました。
私の想定をはるかに越えた子どもたち
この単元では、子ども一人ひとりに印象的なエピソードがあります。
クラス全体で言えば、外部からたくさんの人が見学にくる授業で、私の方で授業の流れや板書計画まで考えていたものの、授業時間開始前に子どもたちが自分たちで授業をスタートし、自分たちなりの板書をしていたり、他学年の授業を見るために自習にして教室をあけていると、帰ってきたら1時間分授業が進んでいたりしました。
また、事前と事後でアンケートをとり、効果測定を行おうと思っていましたが、事後アンケートはこちらが動く前に子どもたちが自分で作成し、自分たちで効果測定をおこない、結果をHPに公開していました。市のプレゼン発表に向けても、教員の手が全く入らないまま、発表者以外も複数名参加してオンライン上での会議を行い、オンライン上で共同編集をしていました。
初任の年に戸田市教育長からいただいた「出藍の誉れ」という言葉通り、それぞれが大きく成長し、私自身を超えていきました。
このように、【総合的な学習の時間】は、子どもたちの主体性が表出しやすい活動だったのだと思いますが、今回の単元に限らず、学校生活のありとあらゆる場面で協働することによって主体性が培われたと思います。
例えば、国語でのビブリオバトルや狂言・柿山伏、社会科での歴史まとめスライドづくり、音楽でのボディーパーカッションとダンス、運動会でのフラッグを使った創作ダンス、休み時間や放課後も含めて、主体性の表出の手段を学んでいったのだと思います。
6年生全員が育成したい資質・能力の目標に到達
私の学校では、協働力(知識技能)、問題解決力(思考判断表現)、学びに向かう力の評価の3観点を学校として育成したい資質・能力としていました。
6年生では基本的に、子ども一人ひとりの資質・能力の育成に対して教員としての目標を立て、児童の自己評価を元に1on1での対話を行って見とっていました。6年生の卒業時、どの観点でも全員が目標に到達し、こちらの想定を超えた活動をしている児童も多数いました。
一方で、評価は児童の意欲喚起や児童自身の目標設定の基準、教員との対話を通したメタ認知の育成のために行っており、評価されたその力が小学校卒業後も汎用的に活用できているのかなど検討すべき課題でもあると感じています。
「社会は自分たちでよくできる」という言葉が、子どもたちに届いてほしい
この指導案を公開するにあたり、まずは6年生が発信していた「社会は自分たちでよくできる」という言葉が、今学校に通っている子どもたちに届いてほしいと願っています。
「ルールを作る」という取り組みは、作ることだけが目的なのではなく、そのプロセスで民主主義やシティズンシップについて学ぶことができる、とてもいい教材だと考えています。
今後、数年のうちに、学校のルールをどこの学校でも見直すタイミングがくると思います。そのときに再び大人だけで決めてしまうのか、子どもの「意見も聞く」のか、子どもが「作る」のか、学校としての教育観や子ども観が問われているのだと思います。
これを読んで下さった方、いつでもお手伝いしますので、是非、子どもたちに「作らせる」のではなく、「一緒に作る」という選択肢を考えてもらえたら嬉しいです。
小林湧さんプロフィール
加賀市教育委員会地域プロジェクトマネージャー/教育長補佐
1992年生。(株)ベネッセコーポレーション高校コンサルティング営業、Teach For Japan5期フェロー(小学校常勤講師)、埼玉県戸田市小学校教諭を経て22年4月から現職。
教員時代は特別活動の研究指定校として2年間勤務した学校でダイアログインザダークと共同での授業開発。総合的な学習の時間を軸にしたカリキュラム・マネジメントの研究指定校として3年間勤務した学校でセサミストリートカリキュラムの推進、イエナプランの部分的導入と自由進度学習の推進、児童主体の学校のルールメイキングを実践。
現職では、市の振興基本計画の策定等に関わる一方、令和の日本型学校教育を推進するために教員研修や、学校・教員の授業伴走を行う。
編集後記
私が特に印象的だったのは、小林さんからの最後のメッセージ。学習指導案を公開するにあたり、誰に何が届いてほしいかという質問に対して「6年生が発信していた『社会は自分たちでよくできる』という言葉が、今学校に通っている子どもたちに届いてほしい」という言葉。
"子どもたちの言葉を、子どもたちへ"
「授業の実践者は子どもたちである」と終始一貫したメッセージを受け取ったインタビューでした。その願いを届けるために、私たちにできることをしていきたいと思います。
(インタビュー・編集:たかのまさこ)
卒業プロジェクトで、消しゴム担当をしていて、小林先生が担任であった立花です。プロジェクトでは先生の前で発表したり、ときには挫折をしたり、とても大変なことでした。6年2組は優れている人が多く、その人達がみんなを引っ張っていくような形でした。クラスで、ついていけない人達も一緒にプロジェクトに参加しようとみんなで頑張っていたのを良く覚えています。今思うと、あのときすごい難しいことをやっていたなと思います。スライドを作って、カンペを作って、各学年の学年主任の前で発表して、とても大変でやりがいのあるプロジェクトだったと思います。クロムブックのテストでは、タイピングの速さだったり、カレンダーの読み取り、検索のかけかたや、パソコンでの学習、色々なことをしていたと思います。ルールを変えるというのはとても大変で無理かもしれないと思うことがいっぱいありましたが、最後まで諦めずにやり抜くことが出来ました。先生にこのメッセージが届くかどうかはわかりませんが、これからもそっちで頑張って下さい!
立花さん、コメントありがとうございます。当時の状況がさらに伝わってきました。
小林先生は「子どもたちが頑張った」ということを何度も伝えてくださいました。
小林先生にしっかりとメッセージ届けますね。
「6年生が自分たちの力で頑張ってた」って言っても見てない人には信じてもらえないけど、こうやって約1年経っても自分の言葉で振り返りが書けていること、嬉しく思います。(金曜の振り返りにコメントするの思い出す)
「すごい小学生だけが頑張った」じゃなくて、みんながそれぞれ頑張ってたのがよかったよね。個人的には柿山伏が今でも笑えるクオリティの高さで好き。
みんなの近況もめちゃくちゃ気になるけど、とりあえずこちらは、あんなクラスがもっと日本に増えるように、楽しく働いています。コメントありがとう。(漢字でかけば名字だけでわかるから名字だけにしてもらったよ)