神戸市で公立中学校教員として働かれているやっさん(2年目)。
多くの先生方が、なかなか授業ができない現状に不満や不安を抱いているではないでしょうか?やっさん もそんな思いを持った先生の1人です。その思いの根底には何があるのか、インタビューしました。
時間的な余裕があることで授業作りなどが進む一方、子どもに会えない不安も
―今日は、時間を作ってインタビューを受けてくださりありがとうございます。早速、お聞きしたいのですが、現在のご自身や学校に起きている状況をどう捉えていますか?
私の心境としては、複雑です。というのも、昨年は教員1年目で学校という職場に慣れるだけで精一杯でした。時間的な余裕もなく、毎日を過ごした覚えがあります。今は、時間的な余裕がある安心感と子どもに会えないという不安の中で、過ごしています。
―長期休業期間中とも異なり、学校へは週1〜3回程度の勤務、それ以外は在宅勤務という勤務形態を取る中で、多くの先生たちに比較的時間の余裕が生まれてきました。この時期だからこそできることに取り組んでいる先生方が多いと思いますが、やっさん の場合はどうなのでしょう?
学校勤務の時は、昨年から作り始めていた学校のスタンダードを担当者と一緒に作りました。全教員が同じように指導できるように完成に近づけたことはよかったです。また、スタンダードで授業の型も揃えました。そこで、在宅勤務中は、私が先生として最も力を入れたい授業作りに時間を割くことができています。
今できることに取り組みつつ、教材開発に力を入れる
―やっさん の学校では、どのような家庭学習を進めていますか?
4月の下旬ごろ各教科の予習ガイドを作成しました。5月1日に各家庭に作成した予習ガイドと市販のワークシートを郵送しました。全教科同じ型でノートに記入するような方式にしました。学びの保障として、連休明けには郵送されているか各家庭に状況確認をして、さらに次の週には、クラスの生徒に電話をして、質問などに答えるようにしています。
多くの公立学校では、家庭学習として予習や授業プリントを作って家庭での学習を進めています。しかし、子どもをサポートする保護者の方の負担が増え、子どもはプリントばかりで嫌になる可能性も大いに含んでいます。さらには、学力が十分に獲得できない生徒は、プリンでの学習そのものが困難ということも挙げられます。その点を分かっていても今できることとして行うしかない。矛盾を抱えながらも仕事をするやっさん 。その分、学校に子どもたちが戻ってきた時、ちょっとでも面白くするための授業作りや教材開発に力を入れているという部分からやっさんの想いが伝わってきました。教材作りこそ、今、先生たちが時間をかけて取り組める1つの取り組みだと思います。
オンライン授業を行うには「情報環境」の問題を乗り越える必要がある
―オンラインでの授業については、学校ではどのように進めようとされているんですか?
生徒に行う前に、まずは先生たちが慣れなくてはということで職員室のパソコンを使ってzoomを立ち上げようとしました。しかし、サーバーが混み合っているのかすぐに落ちてしまいました。元々、神戸市のオンライン環境はあまりよいものではないので、諦めてしまっているというのが現状です。
オンラインで、授業をしたり子どもとの関係性を作ったりすることを願っている教員は多くいるでしょう。しかし、双方向のオンラインでの授業を届けるために抱える情報環境のハード面での問題は大きく分けると2点あります。(1)自治体によって学校の情報環境が脆弱であるということ。(2)家庭の情報環境に差があること。
(1)を満たしても、(2)があるので踏み切れないという問題も起きています。
そうやって、諦めている学校も多いようです。
(1)に関しては、先日、5月11日にlive配信された学校の情報環境整備に関する説明会では、「えっ、この非常時にさえICTを使わないのはなぜ?*」「一律で行う必要はない」との話があり、これから情報環境の整備をしなければ自治体の説明責任が生じるという問題も提起されました。これを受けて、子ども一人ひとりにgoogleアカウントを割り当てる順位をしたり、学校のオンライン環境を早急に改善するなど大きく各自治体が動き出しました。
*"えっ、この非常時にさえICTを使わないのなぜ?"の文科省説明会[5月11日]を文字起こししてみた
また、(2)に関しては、自治体や省庁が家庭へのルーターの貸し出しを行うなどのサポートも始まっています。学校によっては、学校の情報機器を各家庭に貸し出すという方法も取られています。また、公立校の中にも情報環境を整えるために企業と提携して、環境整備をしている学校もあります。
やれない理由を探すのではなく、できることを進める。そこを大切にしていきたいですね。
アフターコロナの教育をよりよいものにするために、できることを考える
―最後に、やっさん の自分ができる取り組みたいことについて聞かせてください
2年目だからこそ、今何をしたらいいかを初任者の方と一緒に考え、フォローを行なって、職員全員でこの状況を乗り切っていきたいです。
今の状況下で、自分にできることは何があるのか。状況を改善し、アフターコロナの教育をよりよいものにするために教員一人ひとりにできることは必ずあると思います。少しずつでいい、その少しを始めることが教員に求められていることなのではないでしょうか?最後にやっさん は、アフターコロナの教育が詰め込みになるのではないかという問題意識とともに、分散登校下におけるクラスの意味は?という問題も提起してくれました。
やっさんからは、僕自身が一歩踏み出すきっかけをもらったと思っています。インタビューさせていただきありがとうございました。
石橋智晴(インタビュー / ライティング / グラフィック)