卒業プロジェクトとして「学校のルール」の改善に取り組んだ埼玉県戸田市立新曽小6年生の総合的な学習の時間の学習指導案をビジュアルコンテンツとともにご紹介します。
新曽小6年2組の担任(2021年当時)の小林湧先生が、子どもたちのこれまでの積み重ねてきた実践を丁寧に見取り、未来の姿を想像して書き起こした指導案は、限りなく子どもたちが主語となっています。
「“私の授業”ではなく“子どもたちの実践”」
そう話してくれた小林先生が見ていた教室の景色、子どもたちの実践の過程を、この指導案から少しでもお伝えできればと思います。
▲ダウンロードできるPDFを作成しました。
また、ビジュアルコンテンツの元になった学習指導案も併せて添付しますのでご参考にされてください。
資料1 / 資料2 / 資料3
*上記PDFは、クレジット表示、非営利目的、改変なしを条件に再配布可能コンテンツです。ライセンスの詳細はこちらをご覧ください。
単元名
総合的な学習の時間学習指導案『卒業プロジェクト~学校内の三権分立~』
新曽小学校・小林湧教諭(2021年当時)
単元のゴール
「学校のルール」という自分ごと化しやすいテーマに対し、主体的・協働的にプロジェクトを進めながら、納得感をもってルールを守ったり、伝えたりする態度を育てたい。
単元の目標
知識及び技能*1
探究的な学習の過程において、課題解決のためには、互いのよさや力を活かしていくことが重要であると理解することができる。
思考力、判断力、表現力等*2
リサーチやフィードバッグから得た情報から、「自分ができること」を考え、相手の立場に立った分かりやすい伝え方でまとめることができる。
学びに向かう力、人間性等*3
目的意識を持って、最後まで見通しを持ちながら粘り強くやりぬこうとする態度を育てる。
*1,2,3=学習指導要領において、子どもたちが「何ができるようになるのか」という観点から、育成することを目指す「資質・能力」。詳細はこちら。
児童の実態
探究の流れを理解することができている
子どもたちは5年生の時に、社会や総合的な学習の時間を通じて、「課題設定」「情報収集・整理」「まとめ・表現」「分析・振り返り」 の『探究のプロセス』を意識したPBLに取り組んでいるため、探究の流れを理解することができている。
問題解決への意欲は高いが、改善や課題発見につながっていない
子どもたちに取ったアンケートから、最後まで前向きに問題解決に取り組んだと感じている児童は9割を超えており、意欲をもって粘り強く課題に取り組もうとする態度が見られる。
一方、一度「まとめ・表現」を行った後によりよいものを作ろうとさらに改善点を探したり、新たな課題を見付けた児童は50%程度にとどまっており、一度アウトプットしたら満足している児童が多いことがわかった。
協働することのよさに対する実感が薄い
また、「協働することのよさをどのように感じているか」の項目では、
『個人での作業が一番良いと感じている児童』が29.7%
『得意なことのバランスがとれているチームが良いと感じている児童』が34.5%
『仲がいい児童でグループを組むのが良いと感じている児童』が44.8%
と意見が分かれた。
属性別に分析すると、昨年度のクラスや性別による差異は少なかった。一方で、他教科で出された課題の提出が遅れたり、課題提出の基準に満たないことが多かったりする児童たちは「仲がいいグループ」と答えた割合が高く、他教科での課題の評価が高い児童ほど「個人での作業」がよいと回答していることが分かった。他の児童たちのフォローをすることが多く、互いのよさや力を活かしている感覚がないため、個人の方が効率がよいと考えていることが推察される。
学校のルールを理解しているが、納得はしていない
また、本学級の児童にアンケートを実施したところ、およそ85%の児童が学校のルールを理解していると考えている一方で、学校のルールを守ってないと自覚している児童が40%程度いた。
理由を聞いていくと「納得できていない」という声があがったのでアンケートを取ると、半数以上が納得できていないルールがあると回答した。
学校の授業力向上施策とのかかわり
カリキュラムを「つなぐ」
新曽小学校で身につけたい資質・能力を検証し、「協働力」「問題解決力」「自ら進んで学びに向かう力」の3つの力に再定義した。資質・能力を児童たちと共有した上で、資質・能力ベースのルーブリックで自己評価を行ったり、内容だけでなく資質・能力ベースでのカリキュラム・マネジメントを行ったりしながら、徐々に日々の振り返りでも資質・能力を意識できるようにした。
アクティブ・ラーニングの視点を生かした授業改善の手立て
日々の活動でICTの文具的活用が進んでいるが、授業内でICTの活用で主体的・対話な深い学び(アクティブ・ラーニング)を促すことで、協働するよさを感じられる学習活動にしたい。
単元設定の理由
「学校内の三権分立」という単元を設定した。GIGAスクール構想で一人一台Chromebookが導入され、ICTが学びのマストアイテム化される一方で、学校内では統一したルールをさらに増やすべきではないかとの議論が教員の中で出てきた。
児童にそのことを伝えたところ、「Chromebookは自分たちの学びの道具だから、自分たちでレベルアップできるようなルールをつくりたい」という声があがった。道徳の「本当に大丈夫?」「マナーからルールへ、そしてマナーへ」「いらなくなったきまり」で「節度・節制」「規則の尊重」と組み合わせながら、禁止型ではなく、自分たちがレベルアップできるルールメイキングを行った。レベルアップ型ルールづくりで「理想の新曽っ子像」を設定していく上で、「Chromebook」の活用に限った話ではないのではないかという話題がでた。社会の「国の政治のしくみと選挙」で三権分立を学習した児童たちは「学校内では司法権も立法権も先生が握っている状態になっている。ICT活用と同じように、学校のルールに関しても自分たちで見直すことができるのではないか」という議論をはじめた。
「学校のルール」という自分ごと化しやすいテーマに対し、主体的・協働的にプロジェクトを進めながら、納得感をもってルールを守ったり、伝えたりする態度を育てたい。
単元の構成について(カリキュラムマネジメントの視点)
本単元は大きく分けて3つのパートに分けられる。Chromebookのルールをレベルアップ型で創っていくフェーズ①、新曽小の校則全体に視野を広げ、職員会議に提案するフェーズ②、提案が通ったものと通らなかったものを整理・分析し、他の学年に改めて校則を紹介するフェーズ③である。
フェーズ①:Chromebookのルールをレベルアップ型で創っていく
望ましい新曽小6年生の姿をレベル3とおき、高学年になるまでに目指したい姿をレベル2、低学年で慣れておいてほしい力をレベル1とした。それぞれのレベルごとに必要なスキルを細分化していくことでChromebookの使い方のルールが決まっていくとともに、児童の中で「望ましい新曽小6年生の姿」がICT活用だけに留まらないという新たな課題を発見できるといったフェーズ②に繋がる気づきをもたせていく。
フェーズ②:新曽小の校則全体に視野を広げ、職員会議に提案する
新曽小学校の校則を整理・分析し、他校の事例等と比較しながら望ましい新曽っ子の姿と整合性のとれる校則を職員会議に提案していく。その時、学校教育目標との関連を意識させたい。また、校則を見直していく中で新たな問いや課題が発生すると仮定し、探究活動の中で何度も課題解決のためのサイクルを往還する必要性を感じさせたい。また、活動を校外に発信することで、自分達の活動と社会の繋がりを感じられる場をつくっていきたい。
フェーズ③:提案が通ったものと通らなかったものを整理・分析し、他の学年に改めて校則を紹介する
提案が通ったものと通らなかったものを整理・分析し、なぜ学校にとってその校則が必要か/必要じゃないかをまとめる。その上で、下の学年に改めて校則の必要性、妥当性を伝えていきたい。その際、ScratchやGoogleサイトの活用も想定される。
授業レポート
この学習指導案の授業は、「教育ICTリサーチ ブログ」にて詳しく紹介されています。
アンケートレポートでは子どもたちの声も掲載されていますので、ぜひ併せてご覧ください。
ルールメイキング(Chromebookの使い方)
戸田市立新曽小学校 授業レポート まとめ(2021年6月23日)
卒業プロジェクト
戸田市立新曽小学校 授業レポート(2021年11月15日)
戸田市立新曽小学校 卒業プロジェクト レポート(2022年2月2日)
戸田市立新曽小学校 卒業プロジェクト&一人1台Chromebook アンケートレポート No.1(2022年3月2日)
戸田市立新曽小学校 卒業プロジェクト&一人1台Chromebook アンケートレポート No.2(2022年3月2日)
戸田市立新曽小学校 卒業プロジェクト&一人1台Chromebook アンケートレポート No.3(2022年3月2日)
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