今回は公立中学校で勤務されている石田先生(仮名)のインタビューです。学校に新しい風を吹き込むときに立ちはだかる壁や、ご自身の傷ついた経験から「関係性」を重視した職員室づくりについてお話を伺うことができました。
先生になりたいと思ったのは、組織を何とかしたい!という思いから
石田先生が教員になるきっかけは、ご自身が中学生だった時のこと。小学生のころに、教え合う形の授業を受け、人に教えることの楽しさに気づきます。中学生になってからは、周囲にやんちゃなクラスメートが多く、授業に集中できない日々を送りました。「この学校の状況をどうにかしたい!」という気持ちが芽生えたことが、中学校教員を目指すきっかけとなったそうです。
教員になってからも、学ぶ事が好きで授業実践などの研究会に参加することが多かった石田先生。1校目の中学校では、研究会などで得た知識や技術を、学校でアウトプットできる環境が整っていたそうです。さらに、メンターチーム(若手育成チーム)の活躍が目覚ましく、石田先生自身が若手の先生同士の架け橋になり、ファシリテーションを任されていたことが中堅の立場になった今につながる、とてもいい経験になっていたとお話していただきました。
より組織に目がむき始めた2校目
そんな中、コロナ禍での異動で2校目の中学校へ。
前任校とは違う先生たちの雰囲気。コロナの影響もあり、人間関係が希薄になっていることを感じていたそうです。特に、初任の先生の困り感を強く感じていた石田先生ですが、周りの先生たちは自分の仕事を回すことで精一杯…。
自分が何とかしなければと思ったが、気持ちと行動が空回りしてうまくいかなかった。
と教えてくださいました。
このままではいけない。この気持ちこそが、現場を良くしなければと思ったきっかけだったといいます。
どうにかして先生達の困り感を解消したい。教務主任の先生と二人で話を重ね、周りの先生に「まずは教師が学ばなければならない。」と、全体に対してアプローチをしていったそうです。
でも、全然うまくいかない。気づけば、「僕と教務主任の先生」とそれ以外の先生の間に溝ができていたんです。全体への投げかけは得意だった教務主任の先生でしたが、僕も含めて個々の先生との関係づくりがうまくいっていなかったのだということに気がつきました。
その挫折を経験し、周りを変えようとするのではなく、まず「自分が変わって動いてみよう。」という考えになったそうです。
声かけは自分から。相手の思いを大切にするフォロワー型のリーダーシップ
まず、職員室の閉塞感はどこから生まれるのかを考えた石田先生。
「誰かが意見を出してもどうせ変わらない…。」閉塞感の原因は、改善したい点はあるのに、何も変えられない雰囲気ということがスタートにあることに気づきます。そして、問題を誰が解決すべきか担当が決まっていないことが原因としてある事に気が付きました。
それなら、その穴を僕が埋めよう。僕が学校を動かすタイヤになろう。
先生達からでる日々の困り感や改善したい事を自分からどんどん聞き、それを解決するための案をまずは石田先生が出してみる。
そこでポイントとなるのが、「相手の考えや想いに乗ること」。
何か提案をする時には、必ず提案する先に「相手」がいることを1番に考えることが重要だと教えてくださいました。
誰もが「何とかしたい。」と思っていながらも、そのきっかけづくりがなかなか出来ずに困っている先生が多い。そこで、まずは自分が案を作って提案する。でも、「これをやりたいんです!」と押し通すのではなく、「先生はどうしていきたいですか?」と、相手の想いを引き出す。この最初の一歩を動かしてしまえば、後はその仕組みをつくり実行していくだけ。僕は、あくまで職員室が動きだすためのタイヤの役割。タイヤが少し動けば、そのあとは自然と駆動していってくれると思います。
先生同士の会話の質を変えることが、職員室を変えていく第一歩
そして、先生同士の関係づくりも集団が動くときに必要な要素になってくると教えてくださいました。
”職員室内で意見が対立するとき、もちろん「正義と正義のぶつかり合い」になっている場面も多くありますが、実は先生同士の関係がうまくいっていないことが原因だったりする時もあります。”
職員室での会話は大きく2パターンしかないと分析する石田先生。
1つは先生のプライベートの話。そして、2つ目が、話題の多くを占める「子ども」についての話です。
話題の中心になるのが子どもたちのことなら、その話題が「子どもの行動を変えて、改善したいこと」になると、「あの子のここがまだダメだ!」「全然行動が変わらない」など会話もネガティブな発言ばかりになってしまいます。そして、そんな発言をする先生からは、職員室の中でも、自分の悪いところばかりを見られているのでは無いかという疑心暗鬼になってしまいます。
でも、「あの子のこんなところがよかった。」「授業でこういういい発見があった。」などポジティブな会話が増えればおのずと職員室の雰囲気も明るくなり、また、それが子どもたちにも伝わっていきます。大人の会話の温度は、子どもと関わる温度と同じだと考えています。まずは、大人同士でポジティブな雰囲気をつくることができれば、子どもたちに対してもあたたかい気持ちで関わることができると思います。
子ども、保護者、そして先生。学校に関わるすべての人が幸せになるために
まずは、先生自身が教師という仕事や働く学校を好きになってほしいと思います。そして、この仕事を続けていることに幸せを感じてほしい。
学級経営がうまくいかず傷つく先生や、初任者の子がボロボロになっていく姿を見たくない。先生自身が学校に愛情をもって、その現場で働くことに幸せを感じてほしいと強く思います。
今は、働き方改革という言葉が出てきて、業務の削減、効率化のための案がどんどん出しやすくなっています。一方で、それを実行しようとしたときに、単に「先生の業務を減らしたいから。」という理由では納得が得られない部分もある。
やはり中心にあるのは「子どもたち」であることを忘れてはいけないと思います。
子どもも、その保護者も、そして先生もみんなが学校に愛情をもって、幸せを感じる学校づくりをしていきたいですね。
石田先生から、職員室を変えたいと想う先生へのアドバイスをいただきました。
① まずは自分から!止まっているよりも、何か自分にできることを探す。
② 対立してしまう時、相手も良くしようと思っている事を忘れずに。相手の当たり前や正義を引き出し、乗っかっていくことがポイント。
③ 学校の先生でいることを自信をもてる先生が、1人でも増えるように動く。
編集後記
自身の経験を通して、職員室から学校を変えていこうと奮闘されている石田先生。
「まずは、自分が動く。」まさにそれを体現されている方でした。そして、「教員として働く中でたくさん傷ついたけれども、それでも最後に救ってくれたのは、生徒たちであり、周りの先生方だった。」と話される石田先生のその言葉に教師の仕事の尊さを改めて感じます。こういった先生一人一人の取り組みが、ひとつひとつ繋がっていき、未来の教育を支えることになると心から思います。石田先生、貴重なお時間ありがとうございました。
(ライター:Umi)
石田先生が、職員室の会話に着目され、それを分析されていることがとても新鮮でした。「大人の会話の温度が、子どもに関わる温度と同じ」という言葉はまさにその通りだと思います。会話の裏には、自分達のマインドセットが見え隠れします。日常の会話から変えていくことで、たくさんの先生のマインドセットにも変容を起こす。しかも、それをフォロワー型のリーダーシップを発揮しながら。日々の小さな積み重ねが大きな変化を産むのだということに気付かされた時間でした。石田先生ありがとうございました。
(インタビュワー、グラフィック、編集:石橋智晴)
「教室から変わる」Our Story
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