初任者として学校現場で働き始めると、まずは授業力や生徒指導(支援)力など教師としての個の成長を求められることになります。今回は、リフレクションを通して個人として成長し、組織全体のことが見えるようになったと話してくれた若手の先生にインタビューしました。個人の成長や変容の先に、組織全体に意識が向いていくストーリーです。インタビューを受けてくださったのは、音楽科の専任教諭として働かれている水本先生(仮名)です。
子どもとの関係性作りも、授業作りも今できることから始める
新しい職場での関係性づくりは誰しも苦労するものです。水本先生も、勤務当初は、職員室でどのように関係性を作っていけばいいか分かりませんでした。だから、まずは、自分から職員室での細やかな仕事に取り組み、周りの先生たちと関係性を作っていきました。
このころは、授業が中々上手くいかない時期でもありました。音楽の授業で子どもたちが静かに話を聞いてくれない。そんな時は、担任の先生が厳しく指導をしてくれました。水本先生も担任の先生と一緒に叱る指導をしていましたが、自分が理想とする指導と自分が行った指導の乖離に苦しんだのがこの時期でした。
授業や関係性作りで悩んでいた時期に、新型コロナウイルス感染症が流行し、学校は休校になりました。休校明けも感染症対策のために音楽の授業数は、半分に制限されることになりました。水本先生は、授業が無い時間を利用して、『指導略案*1』と『めあて*2』を担当している音楽の授業分すべて作り、さらには模擬授業も行いました。その効果は絶大でした。子どもたちが指示を聞いて一緒に音楽作りに取り組むようになり授業が楽しくなっていったのです。子どもたちが落ち着いて授業に取り組めていなかったのは、自分の指示が正しく伝わっていなかったからだと気がつきました。今までは、静かにならないことを子どもたちのせいにしていました。
子どもたちとの関わりが変わってくると、自分の中にも自信と余白が生まれ、周囲の先生たちを見る眼差しや関わり方にも変化が起こります。これまでは、ベテランの先生の厳しい指導ばかりに目がいっていましたが、その裏にある日常での子どもへの愛情表現に気づくことができるようになってきました。普段のコミュニケーションの中でしっかり愛を伝えているからこそ、厳しさの中でも子どもたちに想いが伝わる指導ができる。それが分かってからは、水本先生自身も子どもたちに自然な愛情表現ができるようになりました。
先生や子どもへの眼差しが変わったのは、欠かさず続けたリフレクションのおかげ
日常から気づきを得ていく水本先生の姿勢を支えていたのは、大学院生の頃から続けていた日々のリフレクション(振り返り)でした。教員1年目から毎日リフレクションを行い、ジャーナルとして記録していました。また、書いたリフレクションは管理職や院生の時のゼミの先生にも見てもらい、フィードバックをもらっていました。自分の指導法やマインドを日々変化させ成長させていくために必要なリフレクション。それを書き続けていたからこそ、略案を作ったり模擬授業をしたりと自分自身を高める行動につながり、周囲を理解する眼差しが深まっていきました。
それによって、忙しい中で一生懸命関わってくれる先生たちをリスペクトでき、次は自分がそんな忙しい先生たちをサポートしたいという気持ちが芽生えてきました。音楽専科として、また、特別支援コーディネーターとして、全校の子どもたちにも関わっています。様々なクラスの授業を担当していることで、先生たちの苦労が身に染みて分かってきました。今は、休み時間には校内を回りながら色んなクラスに入り、そこで気づいたことを担任の先生と話したり、ノートに記入したりしながら共有し、よりよい関係性を築いて、働きやすい仕組みづくりに携わっています。また、ゆくゆくは先生たちをサポートできるように校内でワークショップを開催したり、リフレクションを促すような授業検討会なども行いたいそうです。
余談ですが、関係性を授業の中で作る仕組みについて教えてもらいました。勤務する校内にはOJTの一環として、学年やブロックに関係なく教員で3人組を組んで指導略案を書いて授業を見合ったり、力を入れて取り組む授業を気軽に見てもらう仕組みがあったりします。このように授業作りを通して、関係性を深められる仕組みがあることも学校全体としては必要なものです。
人生をかけて子どもたちに向き合ってきた先生たちをリスペクトする
最後に、組織の中で一緒に働く先生たちへの思いを教えてもらいました。
自分が学んできた知識だけで発言しても、先生たちをリスペクトできなかったら、現場ではよりよい関係性は築けない。自分が色々勉強して知識を得ることも大事ですが、人生をかけて、子どもたちに向き合ってきた先生たちの気持ちを蔑ろにしたら絶対に上手くいかない。先生たちの思いをリスペクトすることが職員室の風土作りでは大事だと思います。
*1=単元や1時間の授業の流れを事前に計画し書き記すのが学習指導案になります。その簡易版を指導略案と呼びます。
*2=1時間の授業の中で、子どもたちが達成を目指す学習目標のこと。
編集後記
水本先生のお話を聞いて、"郷に入りては従え"ではなく、"郷に入りては眼差しを磨け"というような感覚が伝わってきました。先生方が作ってきた学校独自の文化を深い眼差しを持って見つめて、リスペクトする。ふと人類学者コンクリンとフィリピンのハヌノオの人々の話を思い出しました。ハヌノオの人々には、植物を一貫した体系に基づいて独自に分類する文化があります。これは近代科学とは異なる分類法ですが、土着の知識に基づく確固たる分類です。それをコンクリンが知ろうとして観察したことにより、一躍脚光を浴びました。学校の文化も同じような気がします。学校の中で独自に発展してきた文化がそれぞれの学校にあります。人類学者のように、まずは文化やそこで生活する人々を知り、自分のマ文化やマインドとの違いを寛容に受容する。その先に、リスペクトが生まれ、よりよい関係性を築いていけるのではないでしょうか。先生たちにとって、学校にある文化や他の先生たちの想いを丁寧に観察し、自分のマインドを振り返り、知ろうとすることが組織の一員として関係性を作っていく肝なのかもしれません。
(インタビュー・文:石橋智晴/編集:たかのまさこ)
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