今回、インタビューを受けてくださったのは教職19年目の北川先生(仮名)。職員室内の、様々な困難を乗り越えられた北川先生だからこそ語れるインタビュー内容となっています。どうぞ、ご一読ください。
子どもたちへの指導、同僚とのコミュニケーションに奮闘の初任校
北川先生は、中学校での臨時採用の2年間を経て、小学校での勤務を始めました。初任校での4年間で、教職に関わる様々なことを学びます。当時の勤務校は、経済的にも苦しい家庭が多い学区にある小学校。しんどい状況の子どもたちも多く、指導の難しさを感じていました。
さらに、同僚の先生方の平均年齢が50代。職員室の中で新しい提案をする際も、先輩たちに意見を求める日々。提案するときの根回しの大切さに気づいたのは、初任校での経験と当時入っていた組合の中での立ち回る難しさが大きいそうです。
そんな北川先生に、最初の転機が訪れます。
1人もやめない職員室を目指して、教職員全員で困難に立ち向かった2校目
異動先の小学校では、様々な事情から、子どもへの指導が通りづらい日々。そんな中、同僚の先生が、3人も辞める事態に陥ります。当時は、教務主任として学校全体に関わりつつ、先生がいない学級に入って悪戦苦闘する忙しい毎日。その時の忙しい働き方は、今となっては絶対にできないとおっしゃっていたのが印象的でした。管理職のリーダーシップに期待するも、期待通りの結果は得られずに、むしろ職員と管理職が対立する構図に。そんな時に、管理職に職員が思っていることを伝えにいく役割を積極的に担ったのが北川先生でした。前任校で、年齢が上の人に提案を通すために身につけていた力がここで発揮されます。
このような困難な状況なので、教職員一人ひとりへの負担は加増します。そんな時に起こったのが、相手のことを決めつけて語るラベリングでした。
「○○先生は、楽している。」「○○先生の方こそ。」「○○先生がいなくなったから悪い。」
重い雰囲気が職員室の中に蔓延ります。
「どんな先生だって、自分なりに頑張っている。いてくれるだけで、ありがたいんだ。」
相手の悪口を言わない、人として間違ったことはしないと決意した北川先生。
1人もやめない職員室を目指して、職員全員で困難に立ち向かう必要性を痛感したのが2校目でした。
研究校のプライドと現実のギャップ
そして、3校目への異動。3校目は、指導主事を輩出することが多い、自治体きっての研究校。
ここでは、これまでの学びが全てつながります。
異動したてで、高学年担任。そして、学年主任。そのまま持ち上がりで、子どもたちを卒業まで見送りました。
しかし、校内事情的には難しいものがありました。研究は進めなければならない。同期の先生が倒れて、欠員が出る。そして、毎年必ず初任者が2人入ってくるという状況です。
研究と育成をしながら、激務をこなさなければいけないこの状況に、一緒に働く先生たちも限界を感じていたと言います。
しかし、誰も口に出さない。現状に対して、不満はありつつも、そこにエネルギーを割く余力がない。
理想は高いが、現状が伴わない。この状況を変えようと、”したたかに”動き出したのが北川先生です。
問題意識と学びの共有により同僚間での共鳴を生み出す
まずは、主任の間で情報共有。大変な状況の中、高学年担任としてやりきった背景をもとに、主任間で課題の共有を始めます。
他校がやったことのない研究を始めるよりも、「日々の授業の改善」そして、「その改善のために自分たちが変わる」という問題意識を共有し、仲間を増やしていきます。
また、研究校だからこそ、これまでの授業スタイルへのプライドを持っている人もいます。これまで蓄積された自信の一方で、自分のスタイルを変えることへの恐れもある。だからこそ、北川先生は、同僚の先生たちを民間のセミナーへ連れ出します。
「一緒に、学びませんか?」
車を出して、一緒にセミナーに行き、学びの共有と、振り返りをする。その中で、お互いが響き合う共通項を探していきます。
そんなことを地道に続けていく中で、職員室の中に、問題意識を共有する仲間が増えていきました。
この時に、大切にしたことは
「苦手だと思うような人こそ、尊重すること。」
これまでの自負があり、この学校を牽引してきた人だからこそ、リスペクトする。そして、コミュニケーションの量を増やす。
校内研究はもうやめよう!研究から研修へシフトチェンジ
そうして、いよいよ職員室での提案です。管理職が味方になってくれたことも大きな後ろ盾となりました。この年に、研究の在り方が大きく変わります。
研究を廃止して、「日常授業の改善を図るために僕らが変わろう!」をテーマに、校内研修にシフトチェンジします。そして、その担当を北川先生がすることになります。
ここから、学校が大きく変わっていきます。
まずは、みんなが困っていることを掘り出し、それらに基づき、指導案を廃止。宿題も廃止。子どもたちのワークシートやノートをもとに、学年内で授業を見合ったり、授業のサポートで入っている先生や管理職からフィードバックをもらったり、研修ペアなどを作って、学年を跨いで、授業を見合ったりしながら、授業の改善を図りました。これを1ヶ月に1回ある学年部会で行い、研修の基軸としました。
また、年に2回は、授業を録画して、動画を見ながらフィードバックをするなどの研修も行いました。
しかし、これだけでは、シングルループ学習を回すだけになり、前提となる自分の授業観や教育観を振り返ることにはなりません。そこで、年に2回、過去に様々な学校の立て直しを行ってきた元管理職の大学教授に来てもらい、1日様々な教室の授業を見てもらい、フィードバックをもらう仕組みも作りました。その時には、普段からフリーで学級に入って動く先生たちにも語ってもらい、現場の在り方の変容を促しました。
職員室内での個別最適化を進めるために、自分自身が研修担当として喋るよりも、場をデザインし、それぞれが変容していけるようにサポートします。
そうすることで、学習におけるダブルループを回していきます。結果としては、研究をしていた時よりも子どもたちの学力も上がり、何より職員室の空気が軽くなっていったそうです。
「大切なことは、相手の教育観を知ること。悪い子や、悪い人なんていない。ベクトルが同じであれば大丈夫。」
編集後記
人は、同じ場所、同じ時間に一緒に働きながらも同じ世界や景色を共に見ているわけではありません。だからこそ、自分から歩み寄り、話しかけ、共に学び、同じ世界を共有しようと汗をかくことで、学校が少しづつ変わっていくのだと思います。その後、北川先生は、4校目に異動し、その学校の研修を担当されていらっしゃいます。今後の目標は、管理職になること。北川先生だからこそできるリーダーシップを発揮して、誰1人やめない、魅力ある素敵な学校を作っていっていただければ学校の未来も明るいと思います。北川先生ありがとうございました。
(インタビュー・文:石橋智晴/編集:たかのまさこ)
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