「初任者へおすすめの一冊 (2023)」として4月から学校現場で教員として働く方向けに、様々な分野で教育に携わる先輩方から、おすすめの1冊をご紹介いただきました!
「灰色の畑と緑の畑」ウルズラ・ヴェルフェル (著), 野村 ヒロシ (翻訳)
おすすめの理由
仕事に就いてすぐ、仕事に対する理想と現実のギャップにショックを受けることを「リアリティショック」と呼んでいます。もちろん教員にも起こることが広く知られています。ぼくは、様々な学校現場に入って、若手からベテランまで様々な年齢層の教員と一緒に考える「ばん走」を生業としていますが、様々な現場で、リアリティショックを起こす新人教員に出会います。
多くの新人教員にとって、それはとても大変なことです。自分が願っていたことが日々の仕事の大変さの中でどんどん後景に下がっていき、現実を生き残る日々に飲み込まれていってしまう・・・。
ぼくは、そうした先生を支えるものがあると考えています。現実に飲まれそうな自分に、そもそもの願いや志を思い起こさせてくれるもの。それは、圧倒的な物語の力です。
『灰色の畑と緑の畑』はかつてまだドイツが東西二つの国に分断されていた時期に、西ドイツの作家ウルズラ・ヴェルフェルによって編まれた短編物語集です。1974年に日本でも刊行され、それ以来、たくさんの子どもたちと大人によって読み継がれてきた児童文学短編集の傑作です。その作品集に取り上げられた一編一編の作品は、今の社会状況を描いているのではないかと驚くほど、今日的なテーマに満ちています。貧富の差、人種差別、戦争、離婚、高齢化社会・・・それをいずれもその真ん中で引き裂かれた子どもたちに焦点を当てて14編の短い短編作品としてまとめています。
あっという間に読める短い作品ばかりの短編集です。読んでみてください。きっと飛び込んだばかりの教育現場で理想と現実のギャップに苦しみ、現実に飲み込まれそうになったあなたを助けてくれるはずです。目の前の子どもたちが直面する状況に立ち向かう過程で、この本の中の物語をいくつか思い出すはずです。より良い豊かな民主社会を作り出す一人として子どもの前に立とうと思った、その最初の志を、リアリティショックのさなかでもきっと思い出させてくれるはずです。
おすすめしてくれた方
石川晋さん
ばん走者。
1967年北海道生まれ。教員を28年務めた後、ただの「ばん走者」になりました。日本中の先生方の教室に入って一緒に考えています。NPO授業づくりネットワーク理事長という、一応の肩書きもあります。
(企画:木村彰宏 / 編集:たかのまさこ)
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