逗子で小学校に勤務されている大窪先生にインタビューしました。学校再開後を見据えて、勤務校や逗子の授業の在り方の変化を作ろうと模索されています。
休校明けの分散登校、職員の雰囲気はとてもよかった
―今日は、時間をとってくださりありがとうございます。TED(※逗子の教育をさらに面白くしようと動いている会)でもお世話になっています。率直に、最近どうですか?
昨日(5月15日)に子どもたちが分散登校してきたんだけど、その時の職員の雰囲気が本当によかったのよ!ソーシャルディスタンスがわかるように、ただの線ではなくて、足型で作ってみませんかっていったら、その場にいた先生たちが15人ほど協力してくれて全学年分作れたんだよ!
会議を通しての提案ではなくて、その場で提案したことを職員がその場で協力してくれるのは、本当に素敵な雰囲気だと思います。
―いい雰囲気ですね!
そうでしょ!それでね、分散登校(1年生と6年生の半分)やってみてわかったんだけど、6月1日から開校しても、正直安全の確保は難しんじゃないかな。今回、全職員で協力して、できたけどおそらく3学年の半分の子が登校するくらいが安全を担保できる限度だと思う。安全が担保できなければ、いつか子どもたちがコロナにかかって、コロナとの戦いは年単位になってくるよね。そうなると、学校の対応は後手に回るし、授業なんて後回しになるんじゃないかな。
学校の対応が後手に回らないようにEdtechを用いて、指導内容も弾力的に
文部科学省からの通知には、安全を担保することの重要性は何度も出てきています。しかし、実際にその担保を行うとなると、現場のこれまでの仕組みややり方では成立しないのではという懸念の方が大きいです。
―大窪先生はその点をどのように捉えられているのでしょうか?
これまでのやり方だと、対応が後手に回ってどんどん現場は疲弊すると思う。もし勤務校でコロナがでたら、また休校になり、子どもたちは家庭でのプリント学習。先生たちは、授業数確保や学習内容を教えるために、授業が詰め込みになるなど、子どもも保護者も僕らも疲弊するよね。民間では、アフターコロナに向けて危機感をもって、動いているところが多いけど、学校という場所で、そこに危機感を抱いている人が少ないなと感じているよ。
―後手に回らないような対応ってないんですかね?
コロナ下の状況ではEdtechを用いて、効率的に学習を進めることも大切だよね。図工や音楽などを最初は行わないとしている学校も出てきているみたいだけど、そんなのいやだよね。子どもだったら、国語算数ばっかりだったら学校行きたくないってなっちゃうよ。だから、指導内容を弾力的に扱うということがまずは大事になるんじゃないかな。
逗子市は、GIGAスクール構想体現のために、某アカウントを子ども一人一人へ配布することを進めているとのことです。そうなると、オンラインでのクラス作りや課題のやり取りなどもできるようになってきます。大窪さんの勤務校では、それを念頭に置いて学校のiPad40台を家庭に貸し出す準備を進められています。
―勤務校でも今後、オンラインでの授業が進みそうですね!
授業の在り方を変えていきたいよね。学校は学びのきっかけ作りにして、家庭で探究する。そして、オンラインを使って共有したり相談したりする探究的な家庭学習をできれば、学校にいる時間も半分ぐらいで済むんじゃないかな。そうすると、対応は後手に回らないよね!
学習指導要領の内容を大切にし、これまでのやり方を手放す
―今回は、新学期が始まってすぐに休校なので子どもたちが新しいクラスでの探究的な学習のやり方を知らないまま家庭学習を進めていますよね。
そうなんだよ。校長とも話していたんだけど、探究に没頭する体験を子どもたちがこれまでにできていれば、今回の休校もワクワクするものになっていたんじゃないかなって。そこに至るには、子どもを信じてあげることができていなかったと反省してるんだよね。なんだかんだで、先生がいなければ学習を進められないんでしょという意識が自分の中にあって、探究的な学習をたくさんしてあげられてなかったんだよ。
探究的な学習を進めるには、先生たちの中にも不安はあります。好きなことを探究するのはもちろん素敵なことだけど、それだけやっていて教えなければいけないことを全て網羅できるのかな?と。
ー少しづつ探究的な学習を進められていた大窪先生はどのように考えられているのでしょうか?
教科書を思い切って手放すのが大事だよね。手放してみれば意外とできるんだよ。学習指導要領の目標や指導内容を大切にすればいいからね。よく言う、教科書を教えるのではなく、教科書も1つのよくできた資料として使って教えればいいからね。そうやって、学習指導要領を土台にして、進めれば、例えば指導書で算数の15時間の単元があったとしたら、学校で大切な部分を7時間で教え、家庭で残りを進めるなどすれば時間に余白が生まれるよね。その生まれた余白を使って、より探究的な学習を進めたりたくさん遊んであげたりすればいいんじゃないかな。
お話を聞いて、弾力的な指導を行うと言うことは、やらない教科を決めると言うわけではなく、教科の中で学習指導要領に準拠した指導内容を大切にしながら、進めることだと感じました。大窪先生の勤務校には、分散登校の中でわからない問題を聞きにきた子に動画を見せながら教えている先生がいらっしゃるそうです。それは、本当に素敵なことだけど、もっと思いっきり遊んであげたいよね!子どもが笑顔になりたがってるんだもん!とおっしゃられている大窪先生。子どものために動こうとされているその言葉からは、大窪先生の普段の子どもたちへの関わり方や人への関わり方がにじみ出ていました。
自分自身の熱い想いではなく、「問い」で周囲を巻き込んでいく
―そんな授業を学校全体で進めるために、研究主任という立場からどのように進めようと考えられているんですか?
先生たちと一緒に進みたい。だから今話しているみたいに熱く話してしまうと少し浮いちゃうよね。ちょっと意識高い人がやりたいだけでしょ。とか、研究の人が言ってるからやらなきゃならないんでしょ。ってなっちゃう。そうじゃなくて、先生たち、一人ひとりにいかに自分ごと化してもらうかが大事だよね。
―そのためには、僕は問いが大切になってくるかなと思うんですがどうですか?
そうだね。まずは、突っ走りすぎず2割の先生たちで先行して進めること。そして、そこからトップランナーを増やしていくこと。そこには、熱い言葉ではなくて、問いをいくつか散りばめて、丁寧な対話を何回も重ねること。だから、予定していた前期の研究授業はストップして、休校明けやこの1年をどうしていくかを対話する時間に前期の研究を充てたいと思う。この休校を振り返ったときに、「あの時、チャンスだったんだね」で終わらせたくないからね。ここをチャンスと捉えるのは僕ら次第だから。
大窪先生の言葉から他の先生たちと一緒に進んでいくんだという決意が伝わってきました。
大窪先生は逗子市内で同時多発的にこの動きを広めようと働きかけをされています。大窪先生と話していて、思い出したのが、海士町の隠岐島前高校で高校魅力化プロジェクトを進められていた岩本悠さんの言葉でした。「島前高校は、小さなボード。国の教育という大きな船を先導するボートなんだ。機動力があって、自分たちで考えて国を先導して動いているんだ。」大窪先生は学校の中でも機動力抜群のボートのような人なんでしょう。
しかも、逗子市内でも同時にこのような取り組みを始めようと動いている人。ゆくゆくは逗子市自体が国を先導するボートとして、大きく進んでいくんじゃないかと思いました。ボートの中で、楽しく覚悟を持って周りの人を巻き込みながら進められている大窪先生の姿が目に浮かびます。大窪先生ありがとうございました。
石橋智晴(インタビュー / ライティング / グラフィック)