「初任者へおすすめの一冊 (2022)」として4月から学校現場で教職員として働く方向けに、様々な分野で教育に携わる先輩方から、おすすめの1冊をご紹介いただきました!
おすすめの書籍
おすすめの理由
子どもはどのようにして言葉を獲得するのか?
私が仕事を通してこれまで先生方と一緒によく考えてみた問いは、3つに集約されると思います。
「この授業を通して、子どもたちは何を学んでいるのか?」
「子どもたちが楽しく勉強するにはより何を工夫できるか?」
「そもそもなぜ学習・勉強するのか?」
個人的に、そのどれもの根底にあったのが言葉・語彙の獲得であったように思います。本書では、子どもが言葉を獲得するベースを「人間関係」なのだと伝え、「目を合わせること、心を通わせること、そうしてはじめて赤ちゃんは言葉を獲得していくのだ」と松岡さんのお話を通して優しく教えてくれます。
現在、年間に出版される日本の新刊書籍は約7万点だそうです。先生とは子どもたちにとって「選択肢を増やす」お仕事でもあると思いますが、環境として、そして期せずして子どもたちにとってはある程度選択肢が増えすぎる現状を思います。
言葉の持つイメージを広げ、感情を表現すること・言葉で表現することを大切に生活しよう
そのような「増えすぎる」現状の中で希薄になっているのは「体験を味わい、自分のものにしていく経験」「言葉からイメージを広げ、共感・感動する経験」であるかもしれません。
本書では1970年代後半からだんだんと読み聞かせをする対象の子どもたちの感情表現がなくなってきたことにも触れています。面白いところがあると文字通りお腹を抱えてゴロゴロと部屋を転げ回りながら笑っていた子どもが読み聞かせの会で1~2人いたのが、ほとんどいなくなった、というのです。(*1)
またこれだけ文字・言葉が氾濫しているなかでは、言葉が表すものの意味も軽くなっていき、言葉の持つイメージや雰囲気を「読み取る」ことも難しくなっている、「子どものことばの力の弱まり」を感じる、と松岡さんはおっしゃいます。
話が飛躍するかも知れませんが、先日大学入学共通テストの試験会場付近で受験生ら複数名が高校生に刺される事件(*2)がありました。意地悪でいやな言葉の使い方をすると、受験勉強が「より正確に文章を読み込むこと」「より素早く回答すること」「より偏差値の高い大学に入ること」のために時間を使うことになっている現状があるかもしれない。もちろんそれを目指すことは「悪いこと」ではないのですが、「死」や「痛み」といった言葉も、そうやって体験や広がりを持つもの・気持ちを伝えるものではなく「処理するもの」として言葉が扱われるうちに、もうただの「記号」でしかないのかもしれない。…そんなことを思ってつらい事件でもありました。
最後に、先生方と考えていきたい問いにもう1つ加えたいと思いました。
「私たちは子どもたちとどんな社会・世界を見たいのでしょうか」
それを考えるとき、私たち大人の使う言葉・言葉を使うときにつくる環境も、問われているのだと思います。
*1=松岡さんは本書の中で補足として、70年代後半から80年代に希薄になっていた感情表現が、2000年代になり子どもたちも元気な方に変わり始めているともおっしゃっています。私自身、現状を悲観せず、子どもたちと向き合いたいと思っています。
*2=参考記事:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220115/k10013431921000.html
おすすめしてくれた方
山田 育子さん
活育教育財団 プロジェクト・マネジャー。大手IT企業、個別指導・集団塾を経て2014年よりTeach For Japanへ参画、Program Managerとしてフェロー(教員)の研修・支援に携わり、Liaison Managerとして各種渉外活動に従事。2020年から現職にて学生から保護者まで教育・学びを楽しむ人を増やす活動に励んでいる。
活育教育財団 学びのメディア:https://www.katsuiku-academy.org/media/
明治図書Eduzine・教育オピニオン寄稿記事 ミドルリーダー先生必見!「今ドキ」新人の育て方:https://www.meijitosho.co.jp/sp/eduzine/opinion/?id=20180270
(企画:木村彰宏 / 編集:たかのまさこ)
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