「初任者へおすすめの一冊 (2022)」として4月から学校現場で教職員として働く方向けに、様々な分野で教育に携わる先輩方から、おすすめの1冊をご紹介いただきました!
おすすめの書籍
おすすめの理由
もし初任に戻るなら必ず手に取りたい一冊
もし仮に、初任に戻るなら必ず手に取りたい一冊を探すべく、自宅の本棚を眺めていると、目についたのがこちらの一冊だった。
読み聞かせは、保育や幼児教育、せいぜい小学校低学年までのものと考えられがちであるが、本当は、直接的な指導の言葉が通りにくくなる高学年や中学生、高校生ほど、訴求力と可能性は高い。コミュニケーションの間に絵本や物語、プリント類などの「緩衝物」がはさまることで、メッセージが間接的に弾力性のあるものとして伝わっていくからだ。教師の多くが、メッセージを直接子どもたちにぶつけて失敗している。この点に切り込んでいける方策の一つが読み聞かせである。また子どもたち同士の読みあいが広がっていく中で、教室に聴き合い、学び合う土壌が生まれていくのである。
本書では、教室で行われる読み聞かせについて、歴史的な流れから、効果、方法、価値、様々な読書活動関連バリエーション、さらに実際に教室で読み聞かせてきた本の紹介までを徹底的に書き記した。小学校でも中学校でも特別支援学校でも高校でも実践できることを大切に、理論とプランを示している。
本書が、みなさんの教室での読み聞かせ活動の大きな支えになり、子どもたち同士の学び合いが広がっていくものと確信している。
「まえがき」にもこう書かれているように、きっと、校種問わず、多くの初任者の手助けとなるだろうと直感した。読み返してみると、結果として教員7年目の自分自身にとっても、とても気づきの多い一冊だった。(さらに深めたく、読み進めながら引用元の著作をいくつかポチる)
振り返って、初任者であった当時は僕は、とにかく活動アイデアを求めてこの本を取ったのだなということに気づく。というのも、今回読み返してみると、活動アイデアが書かれた後半部分よりも、圧倒的に第一章に書かれた「読み聞かせ」の歴史や過去の文献の引用から分析される「教室読み聞かせ」の効果や基本技術などを知らぬ間に熟読していたのだ。
すぐにでも教室で取り組みたいという方は、三章から読んでいただきたい。
「まえがき」にはそんな風にも書かれている。初任から4年目くらいの当時の僕は、まずアイデアが必要だったんだと思う。初任の方には、三章から読んでみてまずは実践してみたいアイデアを探してやってみることからはじめると良いのではないかと思う。そういう意味では、経験によっていろんな読み方ができる、長く付き合っていきたい一冊であるとも言えるだろう。
興味を持たれた方は、本書以外にも、文中で紹介されている『対話」がクラスにあふれる! 国語授業・言語活動アイデア42 』や『新版 学級通信を出しつづけるための10のコツと50のネタ』もあわせてぜひ読んでいただきたいところ。
読み聞かせによる「関係性回復」と「力量向上」の効果
本書では、様々な文献からの引用をもとに、読み聞かせには以下の九つ効果があることを示している。
①自己肯定感を高める
②楽しむ
③知識を得る
④人間同士のつながりを深める
⑤読書意欲を高める
⑥基礎学力をつける
⑦教師自身の力量向上になる
⑧関係性の回復を図ることができる
⑨自己の物語を獲得できる
中でも、特に「⑧関係性の回復を図ることができる」について書かれた一節で、『読みきかせで育つもの』に掲載されている藤本英二氏の言葉を引用している部分に注目したい。
それにしても、子どもはなぜ読み聞かせがすきなのでしょうか。子どもに聴いて見なければわかりませんが、おそらく二つの理由があるように思われます。
「お話の世界がおもしろい」ということ、そして「読んでもらうことが楽しい」ということ、言い換えれば、<物語の力><読み手聞き手の関係性>が読み聞かせの二つの魅力なのではないでしょうか。
初任者にとって、子どもたちと関わる上で、何よりもまずぶち当たるのが子どもたち一人ひとりとの関係づくり。どんな距離感で接するといいのか、どんな声かけをすればいいのか、教師として関わるとなると、誰もが悩みもがくところ。ましてやこのコロナ禍、コミュニケーションの手段が制限されている状況下で、関係づくりは何より困難な問題であることは言うまでもない。
さらには、荒れたクラスを持つかもしれない中で、自分と子どもたちとの関係性はもちろん、子どもたち同士の関係性の修復から手をつけないといけないということも十分にありうる。僕も初日から、教室に入るとすでに男女で席が離されていて、冷ややかな空気になっていた、なんて年もあった。そういう意味でも、「⑧関係性の回復を図ることができる」手段をひとつ持っているというのは、大きな強みになるだろう。僕自身、度々、教室読み聞かせのこの効果に救われてきたことを振り返って思う。
さらに、「⑦教師自身の力量向上になる」という効果にも注目したい。「読み聞かせー読み聞かせの継続が教師を鍛えるー」で、大西忠治氏が、トリレース氏の著作に言及して述べていることとして、次の文を引用している。
教師という職業は、ことばでしゃべることによってほとんどなりたっている。『読み聞かせ』は、ことばというもののすぐれた性格と、しゃべるということのいろいろな機能をいやおうなく、私自身に教えてくれる
ただでさえ多忙な学校現場。その中でも学び続けていくことが求められている。そんな中で、初任や早い段階で、いかに、日々の実践の中で、実践を通して学び続けていくかということを考えた時にも、やはり、「教室読み聞かせ」の⑦の効果は、非常に大きな強みになる。僕は、本書でも紹介されている「学級通信の読み聞かせ」を毎日行ってきた。1年で200号以上を書いて読んだ日々の積み重ねは、確かに力量に繋がったという実感がある。そして、何よりそういう姿を1年間毎日子どもたちに見せていたことで伝わっていたこともあったんだろうなと思う。
九つの効果はどれも教室の中で重要になってくる要素。全てに触れたいところだが、その他の効果についてはぜひ本書を手にとっていただいて読んでみてほしい。(個人的には⑨こそが・・・という想いがある)
第三章以降の活動アイデアの紹介については長くなってしまいそうなので、割愛させてもらうが、きっとあなたの手助けとなるアイデアがいくつか見つかるはずだ。(今回読み返してみて、僕自身も新たな着想を得て実践を企んでいるところ)
さて、明日は何を読もうかな。
ところで、僕は今、長野県にある軽井沢風越学園という私立の幼稚園・義務教育学校の混在校で、主に幼稚園年少〜小学2年生の子どもたちと過ごしている。保育の視点はもちろん、一日の大半を野外で過ごすので、「読み聞かせ」の意味合いも小学校の教室の中とは違ってきたりもする。共に働くと保育のスタッフから学ぶことが非常に多く、「読み聞かせ」についてもよく話をしたり、あるいは真似をしたりして、日々新たなことを学ばせてもらっている。
あるとき、気になって「絵本ってどうやって選んでるんですか?」と絵本の選書をしている保育スタッフに聞いてみた。すると、「朝は、そのあとの遊びに繋がりそうな本が多いかなあ。あ、あと、あの子が喜びそうだなって思って手に取ることもある。帰りは、お話を楽しむ感じかなあ。」と返ってきた。またあるときは、幼児に向けて読み聞かせをする絵本の選書に悩んでいると、別な保育スタッフが、「自分がおもしろいと思えるもの、あの子たちに読みたいと思えるものを読むのが一番だよ!」と背中を押してくれた。なるほどなと思って、こういうことは、今も僕の中での選書の基準として今も大切に持っている。
毎日、読み聞かせを楽しんでいると、「昨日読んだ絵本のシリーズ、家にもあったから持ってきた!今日これ読んで!」とか、「日曜日に、同じ作者の別の本見つけたから買ってもらった!まだ読んでないけど、持ってこよっか?」と2年生の人たちが毎朝のように、本の話をしにくる。さらには、幼児の子たちに読み聞かせをしたい1、2年生が出てきて、最近では、帰りの読み聞かせはその子たちに任せることにしている。
今朝は、本書にも紹介されていたレオ=レオニの『フレデリック』が無性に読みたくなって、自分の本棚にあるそれを手に取り、読み聞かせをしたところ。これから、2年生たちと「詩」をたのしむことにした。しばらくは、レオ=レオニの本を読み聞かせしていきたいなと思い、先ほど、自宅の本棚と学校の蔵書から合わせて十数冊並べて一通り読んでみたところ。さて、明日は何を読もうかな。
おすすめしてくれた方
片岡 利允(Kataoka Toshimitsu)さん
通称「とっくん」。学校法人軽井沢風越学園所属。1992年生まれ。奈良県桜井市出身。長野県軽井沢町在住。奈良県の公立小学校で新卒から4年間務めたのち、軽井沢風越学園設立準備財団に入職。風越学園では、主に前期(年少~小2)を担当し、自立した書き手を育てる「作家の時間(ライティング・ワークショップ)」などの実践をしながら、「暮らし」を軸にした野外での体験ベースのカリキュラムを模索中。また、「かざこしミーティング」という全校集会・全校ミーティングの場を立ち上げ、運営している。他にも、職員全体のミーティングや研修の場も担当。NPO授業づくりネットワーク理事として、全国の教員向けの書籍や研修に携わる他、対話に生きるゼミ(古瀬ワークショップデザイン事務所と共同主催)、We are Generators!(一般社団法人見つかる+わかる主催)、Learning Creator’s Lab(一般社団法人こたえのない学校主催)などの学びのコミュニティにも関わる。趣味は、音楽(作詞作曲も)、散歩、野花で生け花など。2021年は、1年で-22kgの減量に成功(腹筋を割るまで継続中)。
(企画:木村彰宏 / 編集:たかのまさこ)
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