学習指導要領は、昭和22年に「学習指導要領一般編(試案)」が制定されたのが始まりです。昭和22年の学習指導要領は、戦後の教育改革の急に迫られて極めて短時日の間に作成されたもので、教科間の関連が十分図られていなかったことなどの問題があったため、昭和26年に全面的に改訂されました。
そこから、時代背景や子どもの実態を踏まえ、よりよい教育を目指し約10年に一度改訂されています。
昭和33~35年改訂
教育課程の基準としての性格の明確化
昭和33年の改訂は、独立国家の国民としての正しい自覚をもち、個性豊かな文化の創造と民主的な国家及び社会の建設に努め、国際社会において真に信頼され、尊敬されるような日本人の育成を目指して行われたものでした。
改訂のポイントは以下の通り。
ア 道徳の時間を特設して,道徳教育を徹底して行うようにしたこと。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/idea/__icsFiles/afieldfile/2011/03/30/1304372_001.pdf
イ 基礎学力の充実を図るために,国語,算数の内容を再検討してその充実を図るとともに授業時数を増やしたこと。
ウ 科学技術教育の向上を図るために,算数,理科の充実を図ったこと。
エ 地理,歴史教育を充実改善したこと。
オ 情操の陶冶(とうや),身体の健康,安全の指導を充実したこと。
カ 小・中学校の教育の内容の一貫性を図ったこと。
キ 各教科の目標及び指導内容を精選し,基本的な事項の学習に重点を置いたこと。
ク 教育課程の最低基準を示し,義務教育の水準の維持を図ったこと。
昭和43~45年改訂
教育内容の一層の向上
昭和43年の改訂は、日本の文化の発展や社会情勢の進展などから、教育内容の一層の向上を図り、時代の要請に応えるとともに、子どもの発達の段階や個性、能力に即し、学校の実情に適合するように改善を行う必要がありました。
改訂のポイントは以下の通り。
ア 小学校の教育は,教育基本法及び学校教育法の示すところに基づいて人間形成における基礎的な能力の伸長を図り,国民育成の基礎を養うものであるとしたこと。
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イ 人間形成の上から調和と統一のある教育課程の実現を図ったこと。すなわち,基本的な知識や技能を習得させるとともに,健康や体力の増進を図り,正しい判断力や創造性,豊かな情操や強い意志の素地を養い,さらには,国家及び社会について正しい理解と愛情を育てるものとしたこと。
ウ 指導内容は,義務教育9年間を見通し,小学校段階として有効・適切な基本的な事項に精選したこと。この場合,特に時代の進展に応ずるようにしたこと。
昭和52~53年改訂
ゆとりある充実した学校生活の実現=学習負担の適正化
昭和52年の改訂は、自ら考え正しく判断できる力をもつ児童生徒の育成が重視され、改善が行われました。
各教科等の目標の設定や指導内容は、基礎的・基本的な事項に精選されました。
改訂のポイントは以下の通り。
① 道徳教育や体育を一層重視し,知・徳・体の調和のとれた人間性豊かな児童生徒の育成を図ることとしたこと。
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豊かな人間性を育てる上で必要な資質や徳性を児童の発達の段階に応じて十分身に付けるようにするため,各教科等の目標の設定や指導内容の構成に当たって,これらの資質や徳性の涵養に特に配慮した。
② 各教科の基礎的・基本的事項を確実に身に付けられるように教育内容を精選し,創造的な能力の育成を図ることとしたこと。
各教科の指導内容については,次の4つの観点に立って,各学年段階において確実に身に付けさせるべき基礎的・基本的な事項に精選した。
ア 小・中・高等学校の指導内容の関連と学習の適時性を考慮して,各学年段階間の指導内容の再配分や精選を行った。
イ 各学年にわたって取り扱うことになっていた指導内容は必要に応じて集約化を図った。
ウ 各教科の指導内容の領域区分を整理統合した。
エ 各教科の目標を中核的なものに絞り,それを達成するための指導事項を基礎的・基本的なものに精選した。
③ ゆとりのある充実した学校生活を実現するため,各教科の標準授業時数を削減し,地域や学校の実態に即して授業時数の運用に創意工夫を加えることができるようにしたこと。
ゆとりのあるしかも充実した学校生活を実現するため,各教科の指導内容を精選するとともに,学校教育法施行規則の一部を改正し,第4学年では週当たり2単位時間,第5,6学年では4単位時間の標準授業時数の削減が行われた。このことによって,学校の教育活動にゆとりがもてるようにするとともに,地域や学校の実態に応じ創意を生かした教育活動が展開できるようにした。
④ 学習指導要領に定める各教科等の目標,内容を中核的事項にとどめ,教師の自発的な創意工夫を加えた学習指導が十分展開できるようにしたこと。
各教科等の目標や指導内容について中核的な事項のみを示すにとどめ,また,内容の取扱いについて指導上の留意事項や指導方法に関する事項などを大幅に削除した。このような大綱化を図ることによって学校や教師の創意工夫の余地を拡大した。
平成元年改訂
社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成
平成元年の改訂は、生涯学習の基盤を培うという観点に立ち、21世紀を目指し社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成を図ることを基本的なねらいとされました。
改訂のポイントは以下の通り。
① 教育活動全体を通じて,児童の発達の段階や各教科等の特性に応じ,豊かな心をもち,たくましく生きる人間の育成を図ること。
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これからの社会において自主的,自律的に生きる力を育てるため,道徳を中心にして各教科や特別活動においても,それぞれの特質に応じて,内容や指導方法の改善を図ることに配慮した。
② 国民として必要とされる基礎的・基本的な内容を重視し,個性を生かす教育を充実するとともに,幼稚園教育や中学校教育との関連を緊密にして各教科等の内容の一貫性を図ること。
各教科の内容については,小学校段階において確実に身に付けさせるべき基礎的・基本的な内容に一層の精選を図るとともに,基礎的・基本的な内容を児童一人一人に確実に身に付けさせるようにするため,個に応じた指導など指導方法の改善を図ることとした。また,個性を生かすためには,児童一人一人が自分のものの見方や考え方をもつようにすることが大切であり,各教科において思考力,判断力,表現力等の能力の育成や,自ら学ぶ意欲や主体的な学習の仕方を身に付けさせることを重視した。
③ 社会の変化に主体的に対応できる能力の育成や創造性の基礎を培うことを重視するとともに,自ら学ぶ意欲を高めるようにすること。
各教科の内容については,これからの社会の変化に主体的に対応できるよう,思考力,判断力,表現力等の能力の育成を重視することとした。
また,生涯学習の基礎を培う観点から,学ぶことの楽しさや成就感を体得させ自ら学ぶ意欲を育てるため体験的な学習や問題解決的な学習を重視して各教科の内容の改善を行った。
④ 我が国の文化と伝統を尊重する態度の育成を重視するとともに,世界の文化や歴史についての理解を深め,国際社会に生きる日本人としての資質を養うこと。
我が国の文化と伝統に対する理解と関心を深め,それを大切にする態度の育成を図るとともに,日本人としての自覚やものの見方,考え方についての基礎を培う観点から,各教科等の内容の改善を図ることとした。その一環として,国旗及び国歌の指導については,日本人としての自覚を高め国家社会への帰属意識を涵養するとともに,国際社会において信頼される日本人を育てる観点から,その充実を図ることとした。
平成10~11年改訂
基礎・基本を確実に身に付けさせ、自ら学び自ら考える力などの[生きる力]の育成
平成10年の改訂は、各学校がゆとりの中で特色ある教育を展開し、児童に豊かな人間性や基礎・基本を身に付け、個性を生かし、自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を培うことを基本的なねらいとされました。
改訂のポイントは以下の通り。
① 豊かな人間性や社会性,国際社会に生きる日本人としての自覚を育成すること。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/idea/__icsFiles/afieldfile/2011/03/30/1304372_001.pdf
児童の人間としての調和のとれた育成とともに国際社会の中で日本人としての自覚をもち主体的に生きていく上で必要な資質や能力の基礎を培う観点から,社会や体育,道徳,特別活動等において,それぞれの特質に応じて,内容や指導方法の改善を図ることに配慮した。
② 自ら学び,自ら考える力を育成すること。
これからの学校教育においては,多くの知識を教え込むことになりがちであった教育の基調を転換し,児童に自ら学び自ら考える力を育成することを重視した教育を行うことが必要との観点から,総合的な学習の時間の創設のほか,各教科において体験的な学習や問題解決的な学習の充実を図った。
③ ゆとりのある教育活動を展開する中で,基礎・基本の確実な定着を図り,個性を生かす教育を充実すること。
完全学校週5日制を円滑に実施し,生涯学習の考え方を進めていくため,時間的にも精神的にもゆとりのある教育活動が展開される中で,児童が基礎・基本をじっくり学習できるようにするとともに,興味・関心に応じた学習に主体的に取り組むことができるようにする必要がある。このような観点から,年間総授業時数の削減,各教科の教育内容を授業時数の縮減以上に厳選し基礎的・基本的な内容に絞り,ゆとりの中でじっくり学習しその確実な定着を図るようにすることなどの改善を図った。また,児童が学習内容を確実に身に付けることができるよう
個別指導やグループ別指導,繰り返し指導,教師の協力的な指導など指導方法や指導体制を工夫改善し個に応じた指導を充実することを総則に示した。
④ 各学校が創意工夫を生かし特色ある教育,特色ある学校づくりを進めること。
児童一人一人の個性を生かす教育を行うためには,各学校が児童や地域の実態等を十分踏まえ,創意工夫を存分に生かした特色ある教育活動を展開することが大切である。このような観点から,総合的な学習の時間の創設や授業の1単位時間や授業時数の運用の弾力化,国語等の教科の目標や内容を2学年まとめるなどの大綱化といった改善を図った。
平成15年一部改正
学習指導要領のねらいの一層の実現
平成15年改正は、[確かな学力]を育成し、[生きる力]をはぐくむという学習指導要領の更なる定着を進め、そのねらいの一層の実現を図るために一部を改正。
改正のポイントは以下の通り。
(1)学習指導要領の基準性を踏まえた指導の一層の充実
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/cs/1320947.htm
1 学習指導要領に示しているすべての児童生徒に指導する内容等を確実に指導した上で、児童生徒の実態を踏まえ、学習指導要領に示していない内容を加えて指導することができることを明確にした。(小学校学習指導要領第1章第2の2等)
2 「内容の取扱い」のうち、内容の範囲や程度を明確にしたり、学習指導が網羅的・羅列的にならないようにするための事項は、すべての児童生徒に対して指導する内容の範囲や程度等を示したものであり、学校において特に必要がある場合等には、これらの事項にかかわらず指導することができることを明確にした。(小学校学習指導要領第1章第2の2、第2章等)
(2)総合的な学習の時間の一層の充実
1 総合的な学習の時間のねらいとして、各教科等で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け、学習や生活に生かし、それらが総合的に働くようにすることを加えて規定した。(小学校学習指導要領第1章第3の2等)2 各学校において総合的な学習の時間の目標及び内容を定める必要があることを規定した。(小学校学習指導要領第1章第3の3等)
3 各学校において総合的な学習の時間の全体計画を作成する必要があることを規定した。(小学校学習指導要領第1章第3の4等)
4 総合的な学習の時間の学習活動を行うに当たっての配慮事項を明確にした。(小学校学習指導要領第1章第3の6等)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/cs/1320947.htm
(3)個に応じた指導の一層の充実
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/cs/1320947.htm
個に応じた指導の充実のための指導方法等の例示として、小学校については、学習内容の習熟の程度に応じた指導、補充的な学習や発展的な学習などの学習活動を取り入れた指導等を、中学校については、補充的な学習や発展的な学習などの学習活動を取り入れた指導等を加えた。(小学校学習指導要領第1章第5の2、中学校学習指導要領第1章第6の2)
平成20~21年改訂
「生きる力」の育成、基礎的・基本的な知識・技能の習得、思考力・判断力・表現力等の育成のバランス
平成20年の改訂は以下の考え方をもとに改善が行われました。
・教育基本法改正等で明確になった教育の理念を踏まえ、「生きる力」を育成
・知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視、授業時数を増加
・道徳教育や体育などの充実により、豊かな心や健やかな体を育成
指導内容の充実に関する概要は、以下の通り。
言語活動の充実
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2011/03/30/1304417_001.pdf
○国語をはじめ各教科等で記録、説明、批評、論述、討論などの学習を充実
理数教育の充実
○国際的な通用性、内容の系統性の観点から指導内容を充実
〔台形の面積(小・算数)、解の公式(中・数学)、イオン、遺伝の規則性、進化(中・理科)〕
○反復(スパイラル)による指導、観察・実験、課題学習を充実(算数・数学、理科)
伝統や文化に関する教育の充実
○ことわざ、古文・漢文の音読など古典に関する学習を充実(国語)
○歴史教育(狩猟・採集の生活や国の形成、近現代史の重視等)、宗教、文化遺産(国宝、世界遺産等)
に関する学習を充実(社会)
○そろばん、和楽器、唱歌、美術文化、和装の取扱いを重視(算数、音楽、美術、技術・家庭)
○武道を必修化(保体/中1・2) ○総合的な学習の時間の学習の例示として、地域の伝統と文化を追加(小)
道徳教育の充実
○発達の段階に応じて指導内容を重点化
〔人間としてしてはならないことをしない、きまりを守る(小)、社会の形成への参画(中) など〕
○体験活動を推進 ○先人の伝記、自然など児童生徒が感動する魅力的な教材を充実
○道徳教育推進教師を中心とした指導体制を充実
体験活動の充実
○発達の段階に応じ、集団宿泊活動、自然体験活動、職場体験活動などを推進(特別活動等)
外国語教育の充実
○小学校に外国語活動を導入、聞くこと、話すことを中心に指導(小5・6)
○中学校では聞く・話す・読む・書く技能を総合的に充実
(語数を増加〔900語程度まで→1200語程度〕、教材の題材を充実)
重要事項
○幼小連携を推進、幼稚園と家庭の連続性を配慮、預かり保育や子育て支援を推進(幼稚園)
○環境、家族と家庭、消費者、食育、安全に関する学習を充実
○情報の活用、情報モラルなどの情報教育を充実
○部活動の意義や留意点を規定
○障害に応じた指導を工夫(特別支援教育)
○「はどめ規定」(詳細な事項は扱わないなどの規定)を原則削除
平成27年一部改正
道徳の「特別の教科」化
平成27年の改正は、発達の段階に応じ、答えが一つではない道徳的な課題を一人一人の児童が自分自身の問題と捉え、向き合う「考える道徳」、「議論する道徳」へと転換を図るものとされた。
【「特別の教科 道徳」の目標】
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/078/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/08/05/1375323_4_1.pdf
第1章総則の第1の2に示す道徳教育の目標に基づき、よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を(広い視野から)多面的・多角的に考え、自己(人間として)の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる。
※括弧書きは中学校
【「特別の教科 道徳」の内容構成】
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/078/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/08/05/1375323_4_1.pdf
A 主として自分自身に関すること
B 主として人との関わりに関すること
C 主として集団や社会との関わりに関すること
D 主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること
出典:文部科学省WEBサイト
・学習指導要領の変遷
・学習指導要領等の改訂の経過
・小学校、中学校、高等学校等の学習指導要領の一部改正等について(概要)(平成15年)
・幼稚園教育要領、小・中学校学習指導要領等の改訂のポイント(平成20年)
・小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編
・考える道徳への転換に向けたワ ー キ ン グ グ ル ー プ資料4「道徳教育について」