※こちらの記事は、ポッドキャスト「もしも私が教育長なら」との連動企画です。併せてご活用ください。
戦後の教育委員会制度の特徴
教育委員会ができた背景については「教育委員会とは【前編】「『じゃないほう』で理解する教育行政の今」」をご覧ください。戦前と比較した説明を行っています。
ここでは戦後の教育委員会制度の特徴を2つのポイントに絞ってまとめます。
教育委員公選制
戦後、教育委員は選挙で決められていました。
これは、レイマンコントロールを働かせ、住民の声を行政の意思決定に反映させるためです。しかし、教育委員の公選を通じ、政治的対立が持ち込まれるなどの問題が生じたため、制度は廃止されました。
公選廃止後、教育委員は首長が議会の同意を得て任命することとなり、教育長については文部大臣や都道府県教育委員会の承認を必要とする任命承認制度が導入されましたが、地方分権を求める声を受け、この制度も廃止されました。
教育委員長と教育長
その後、制度改革が行われ、教育委員は首長から任命される形に変わりました。教育委員長は教育委員会の中の互選で選出され、教育長は教育委員会から任命される形が取られました。教育委員長は会議を主宰する代表者であり、教育長は事務を執行する責任者として役割を担うこととなりました。
課題
しかし、このような組織体制には大きく2つの課題がありました。
1.責任の所在のあいまいさ
教育委員長と教育長がいることによる権限の分散が、第一義的責任者の存在を不明瞭にし、何か問題が起きた際に責任者が「お見合い」の状態になることがありました。また、教育委員が非常勤であるため、意思決定の弾力性がなく、対応の遅れにつながっていました。
2.教育委員会の審議の形骸化
教育委員会制度の背景にあった政治的中立性やレイマンコントロールが機能せずに、事務局の提出する案を追認するだけの審議の形骸化への懸念が生じていました。
また、教育委員会の活動についての認知がなく、地域住民から遠い存在であることが指摘され、住民の声を反映するという本来の目的が達成されていないとの批判もありました。
これらの課題は、痛ましいいじめ事件にもつながり、大きな社会問題となりました。
教育委員会制度の大改正
これらを受け、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律(平成26年法律第76号)」が実行されます。
新「教育長」の設置
新たな制度では、教育委員長と教育長を一本化し、第一義的責任者を教育長としました。教育長の任命は首長が行い、任命責任を首長にすることでガバナンスを強化します。レイマンコントロールの考え方は、教育委員による合議制や、教育委員の職業や背景に偏りが生じないよう配慮する規定を維持することで引き継がれます。
教育長へのチェック機能の強化と会議の透明化
新「教育長」が教育行政に大きな権限と責任を持つことになったため、教育委員会の委員による教育長へのチェック機能を強化することになりました。
具体的には、教育委員の定数1/3以上からの会議召集の請求に応じたり、教育長が委任された事務の管理・執行状況を報告することが義務化されました。
また、会議の透明化を図るために、議事録を作成・公表することが義務化されました。
総合教育会議の設置
地方公共団体と教育委員会の連携が難しかった背景には、政治的中立性の担保がありましたが、総合教育会議を設置することで、両者が教育政策の方向性を共有し、一致して執行にあたることが可能となりました。
会議の召集: 首長が召集し、原則として公開されます。
構成員: 首長と教育委員会の委員から構成されます。
協議・調整事項:
・教育行政の大綱の策定
・教育の条件整備など重点的に講ずべき施策
・児童・生徒等の生命・身体の保護等緊急の場合に講ずべき施策
これにより、首長が教育行政に果たす責任や役割が明確になるとともに、首長が公の場で教育政策について議論することが可能になりました。
教育大綱の作成
教育大綱とは、教育の目標や施策の抜本的な方針のことです。
総合教育会議において首長と教育委員会が協議・調整し、首長が策定します。
これにより、地域住民の意向の反映と地方公共団体における教育施策の総合的な推進を図ることが期待されています。
番外編
いじめ問題に関して
平成23年10月、大津市の市立中学校の2年生の男子生徒が、いじめを理由に自ら命を絶つという痛ましい事件が起こりました。この事件を受けて、大津市では第三者調査委員会を設置し、いじめ事件に関する詳細な調査が行われました。調査の結果は「大津市第三者調査委員会報告書」としてまとめられました。
当時の大津市長は、調査報告書と併せて「教育委員会制度の改正に関する意見書」を提出しました。この意見書は、大津市教育委員会の問題点に加え、教育委員会制度全般の問題点や限界についても言及したものでした。
これらの報告書と意見書は、平成26年の教育委員会制度の大改正に大きな影響を与えました。
いじめ防止対策推進法
大津市の事件をきっかけに、平成25年6月にいじめ防止対策推進法が制定されました。学校におけるいじめを防止し、早期発見及び適切な対応を行うための基本的な方針と措置を定めた法律です。この法律により、いじめの防止や対策に関する基本方針の策定が義務付けられ、学校や地方公共団体が協力していじめ問題に取り組む体制が整備されました。また、いじめを受けた児童生徒やその保護者に対する支援の強化も図られることになりました。
まとめ
改正後も教育委員会制度に関する議論は続いており、特に、政治的中立性を厳密に守るべきという意見と、責任の所在を明確にするべきという意見は、大きな論点として存在します。
また、人口が減少していく中で、これまでのような制度運用が可能なのかという議論も避けて通れません。
子どもたちの学びを保障し、痛ましい事件を起こさないためにも、向き合い続けたい問題です。
(文責:たかのまさこ、監修:小原聡真)
参考:
文部科学省:学制百年史
文部科学省:地方教育行政
文部科学省:〔1〕教育委員会制度の現状と課題
文部科学省:資料2 中央教育審議会教育制度分科会地方教育行政部会主な意見のまとめ(案)
文部科学省:地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律について(通知)
文部科学省:大津市立中学校におけるいじめに関する第三者調査委員会の調査報告書について
文部科学省:教育委員会制度の改正に関する意見
文部科学省:いじめ防止対策推進法の公布について(通知)
文部科学省:いじめ防止対策推進法