カタリストーリー「新卒で先生になるのを迷ってる人たちへ」1通目

教員になるにあたって、企業経験が必要かどうか悩んでいる人へ

私は、企業やNPO法人の職員として10年ほど勤めた後に、教員になりました。

個人的には、その10年分の経験は、教員としての仕事に存分に役立っています。

例えば、会社員時代は雑誌の編集や広告制作、広告代理店の営業などを経験しました。広告代理店の営業としての最後の2年弱は某大手電機メーカーのCSR部に常駐させていただき、科学教育を推進する取り組みのコンサルティングを担当しました。この頃、ちょうど教育の世界への転身を考えていたので、この仕事は学校をサポートする企業側の視点を知ることができ、とてもよい機会になりました。

企業経験で最も身に付いた力はコンセプトワークです。雑誌や広告の仕事はターゲットありきの仕事です。ターゲットに対し、どんなメッセージを伝えることが効果的か、さらにそれをわかりやすく伝えるためにはどうしたらよいのか。そして、クライアントに対し、こちらの提案を受け入れてもらうには、どうアプローチをしたらよいか。そんなことを徹底的に問い続け、考え続け、実行する仕事でした。そのため、今、この瞬間に何が1番大切で何を伝えるべきなのかを判断する力がついたと思っています。これは、タイミングが命である生徒指導や、毎時間目標を持って行う授業において大いに役立っています。あと、人件費やコストに対する意識は教員の世界にはあまりない感覚なので、身についていてよかったと感じています。

NPO法人の職員としては、教育系のNPOだったため、企業勤めでは生まれなかったであろう、業界内のつながりができました。この時にできたご縁をもとに、教員になってからはさらにつながりが生まれ、最新の情報が入ってくるようになっています。

また、会社勤めの際には、たくさんの経験をしています。大人の社会の難しさや、大変さ、逆に世界がどんどん広がっていくことの楽しさや自分で仕事を作り出すことの面白さなど、人生の先輩として生徒たちに話せることがたくさんできました。

保護者とお話をする際も企業経験がある話をすると「だから、やっぱり他の先生たちとはなんか違うと思いました。」と言われることもあります。私はこれを褒め言葉だと思っています。(本当かな?笑)

ここまでお話すると、圧倒的に企業経験はするべきだと思う人が多いことと思います。しかし、そうとも言えません。

確かに、企業で得た経験は、新卒後すぐに教員になっていたら絶対にできていない経験ではありますが、教員としての経験は浅いわけです。教員の仕事は想像以上にマルチタスクであり、そして、奥が深く、学ぶ姿勢さえあれば、どんどんいろいろなことを考え、チャレンジしていけます。教員になって、4月で7年目になりますが、この6年間の自身の成長を振り返った時に、もっと早くから教員をしていれば、教員としてもっと成長できていたであろうと感じています。それだけ、経験がものを言う世界です。

だから、大切なのは、教員として自分がいったい何をしたいのか。自分が関わる生徒たちに何を残したいのか。その考えを持って教員になることが必要なのだと思います。逆を言えば、それがなければ、教員になっても生徒に一貫した指導は難しいでしょう。私は教員になるにあたり、いくつかの目標を持って日々の業務に関わっています。

【生徒に求めるもの】

  • 中学を卒業する時に、誰かに一緒に働きたいと思ってもらえる人になっていること。

中学校は義務教育の最後の三年間です。中学を卒業した時に世の中に出しても恥ずかしくない、あたりまえのことをあたりまえにできる生徒を育てたいと考えています。ここは譲れないので、生徒指導は徹底します。

  • 自分の力で考えて行動できる生徒を育てること。

予測不能な出来事が起こっても最終的に生き残れるのは、自分で考え自分で行動できる人だと信じています。だから、関わる生徒たちには、あなたはどう考えるのか。なぜそう考えるのか問う機会をつくって関わっています

【教員としての自分に課しているもの】

  • 教育の質の格差をなくすこと。

多様な環境の生徒が集まる公立学校だからこそ、教育の質を高めたいと考えて日々チャレンジをしています。生徒に起因しない環境要因の中で起こる格差をなくしたい

私自身、教育現場にいると、社会の流れに取り残されていると感じることがあります。そういった危機感から昨年度の夏休みには、自ら企業にオファーをして、5日間のインターンをさせてもらいました。こうやって、感覚を忘れないようにすること、新たな社会の流れを吸収することは大切だと思っています。

そう考えると、私の10年間の企業経験も今ではもう古いもので、過去のものなのです。大切なのは、今と生徒たちが社会に出る可能性のある、3年後、6年後の社会がどんな社会になっていて、その時にどんな力が世の中に求められているだろうかということを予測しながら教育現場に立つことだと思います。私たちが育てているのは、未来の人です。

  • 大人になるって楽しいよ。ということを伝えること。

教壇に立つ時は、今の仕事は最高にやりがいがあって、大人になって世界が広がることはこんなにも楽しいし、人生の選択肢はステレオタイプではなく、無限にあるのだということを発信し続ける努力をしています。そのために私の授業ではいろいろな人に来てもらいます。昨年度だけでも、世界的に活躍している物理学者、東日本大震災時に防災の第一線で尽力された教育委員会の方、IT企業に勤めるシステムエンジニアの方、パレスチナ問題を追いかけてパレスチナまでいった大学生、環境問題に目覚めて活動をしている高校生など、実にさまざまな方々に来てもらいました。

こういう取り組みをしていると「あなたの人脈があるからできるんでしょ」と言われることがありますが、決してそうではありません。過去には、インターネットの動画を見て感銘を受けた介護福祉士の方をFacebookで探し、直接メールを送って、授業をしに来てもらったこともあります。その人との出会いが生徒たちにとって大切だと思えば、相談をすればいいだけです。断られることもあるし、想いが伝わり、共感をしてもらえれば、協力をしていただけます。

結局、大切なのは、自分が教育に目標や目的を持てるか。理想をイメージできるか。そして、目標や目的を持てたら、それを具体化するために動けるかどうかだと思っています

それは、企業経験があろうかなかろうが関係のないことです。現に、私が「この先生は素晴らしいし、いつも新しい視点をくださる」と刺激をいただいている方は企業経験のない、生粋の教員の方です。

大切なのは、教員自らが学び続ける意思があるか、広い視野を持ち続け、常に現状を問う力があるか、周囲に遠慮なく頼れるか、そして、自分の仕事を楽しむ覚悟があるかどうかではないかと思います。

今、この時点で企業経験をすべきかどうか迷っている人は、まずは、自分がどんな教育をしたいのか考えてみてください。企業勤めにしても、教員になるにしても、あいまいな考えしか持てない場合は、きっとあいまいなことしか実現できないと思います。目標や目的を持つ=こちらの思う通りに生徒を動かす。ということではありません。こちらが投げたさまざまな問いを押し付けるのではなく、「私はあなたたちに対して、こう育って欲しいと思って接しています。あなたたちはどう成長したいですか。」と様々な場面で問い続けるようにしています。正解はなく、いろいろな考え方があっていい世界。だから途中で、考えに変更があったって構わないと思います。ただし、教員という仕事は具体的なイメージを持てないと生徒たちも路頭に迷うことになるのではないかと思っています。考える過程は苦しいかもしれませんが、自身の最善の答えをみつけてみてください。

あなたは何のために教員になりたいですか?



Profile

諸戸彩乃
出版、広告業界を経て、東日本大震災をきっかけに教育に関わりたいと思い、教育系NPO法人に転職。その後、教員(公立中学校)となり、2020年4月で7年目。教科は社会科。社会科を通してシチズンシップ教育に挑戦しています。公教育にやりがいを感じ、教育格差をなくすべく、さまざまな教育機会を提供することに力を注いでいます。NPO時代は大学等でキャリアに関する講演会、教員になった後も日本財団のイベントやNPOのイベント等に登壇。企業との教育プログラム開発にも参加しています。

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